【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

【ハッピー】【花と緑】

　イイの？　マジ？　とスグリは言って、柚春がうなずくのを見ると、
「すぐ持ってくるから待っててネ☆」　　
　蝶になったような足取りで飛んでいく。
　まもなく戻ってきた。
「ハ～イ、お待たせしましたァ♪　ご注文のクリームソーダふたつになりまぁす」
　言いながらスグリはエプロンを解きはじめる。
「そしてオレ、いまから早めの休憩時間に入るヨ。隣イイ？　会うの久々だしおしゃべりタイムにさせてもらいたいんだケド？」
「もちろん、僕からもお願いするよ」
　いつの間にか一人称が『僕』になっている。
　ヤッター、と言ってスグリは、ストンと柚春の隣に着席した。
「まあ店長、あ、父チャンのことね――が戻ってきたらなんか言われそうだけど、休憩時間だからオッケーオッケー☆」
　ソファ正面の大画面モニターには、ふたりが生まれるよりずっと前に出たレトロゲームのデモ映像が流れている。まずはスグリがこのゲームの解説を行い、そこからディープだったりファニーだったり、ゲームやその映画化作品、はたまたゲームの原作小説などなど、とりとめもないかわりに起伏に富んだ雑談に花が咲いた。
　やがてまた、スグリの視線は外の桜に止まった。
「そういえばもう春なんだよナァ、ってことは……」
　ハァ～とため息をつく。
「もうすぐオレたちってば二年生になるんだネ」
「進級するのがいやなの？」
「そうじゃないけどサ」
「ちょっとブルーって感じかな？」
「そうそう。文化祭でバタバタしていたと思ったら、テストやら何やらでてんてこ舞いになってアッという間だったナァ」
　光陰アローのごとしだヨと言って、スグリはアイス部分にスプーンを入れる。
「どんな二年生になりたいと思う？」
「まー、一年は中学からの延長的なとこあるし、三年になると受験もチラくつしで、一番高校生らしいのは二年じゃないカ？　だからしっかりゲームもしたいし、たくさん思い出をつくりたいカナ……あ、わりと平凡かなこれっテ？」
　いいと思うよ、と柚春は熱意をこめて返事した。
「僕だっていっぱい遊んでいっぱい楽しい一年間をすごしたいよ。できれば同じクラスで」
「ワオ、同じクラス？　それオレも思ったヨ。柚春チャンとは一年の時同じクラスだったけれども、なかなか話す機会がなかったしさァ。こうしてせっかく仲良くなれたんだし、次も一緒になれるとイイネ～♪」
　だったらいいよね、本当にと柚春は笑顔になる。
「僕、引っ越しが多かったから誰かと新学期が楽しみなんて初めてなんだ。蜂谷く……いや、風見鶏君とだったら――」
「ン？？　今ちょっと蜂谷と言いかけた？　気のせい？」
「ごめん、どうも文化祭のときの印象が強くて……気を悪くした？」
「ノープロブレム、オレ、『BAROQUE:CODE』のコスプレしてたしネ、間違えちゃうのも無理ないカ♪」
　むしろゲーキャラとまちがわれて光栄なくらいダヨとスグリは言って柱時計を見た。
「ア、もうこんな時間！？　仕事に戻らないと」
「ごめん、長くいすぎちゃったね。僕も帰るよ」
　と立ち上がろうとする柚春に、待っててとスグリは告げた。
「そ～だ！　今日はせっかくお店に来てくれたし、柚春チャンにはお土産を進呈するヨ」
　しきりと遠慮する柚春に、いいからいいからとスグリは笑った。
「たいしたもんじゃないヨ、うちの姉チャンがおやつに～って作ってくれてた桜のミルクプリンだから☆」
　家で食べて☆　と言ったとき店のドアがふたたび開いたのである。
「おっとお客さん……！　待っててねお会計の前に渡すカラ」
　と言い残しスグリは入り口に飛んでいく。
「ハ～イ、お待たせしましたァ。イラッシャイマセ～☆」
　本当に、と彼の背中を見送りながら柚春は思った。
　本当に、二年生でも同じクラスになれればいいな。なってほしい！