【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　靴を抜いてゴザにあがって、やはり正座してあおいは彰尋にならぶ。
　正面に座らず隣なのはたまたまだろうが、距離の近さを意識してしまう。
「どうしたの独りで？」
「ああ、今日は家族で花見をするのだけれど……兄さんは仕事で後になって、母さんも急に仕事で席を外してしまったから場所の確保は俺の役割に」
「弟さんと妹さんは？」
　さっきまではいたんだけど、と彰尋は言った。
「お弁当を食べたら遊びに出かけてしまったんで、他の家族が来るまではしばらく俺ひとりで花見……って感じかな」
「そうなんだ」
「あおいさんは？」
「ののこちゃんと来たんだけど、ちょこっと私は買い出しに」
「放っておいていいの？　野々さん」
　ふふっ、とあおいは微笑した。
「口実だもん、『買い出し』ってのは。いま、英二君きてるから」
「あ……佐藤君か」
　あおいはそれ以上言わないが、多少の時間つぶしが必要なのはまちがいなさそうだ。
「だからしばらく、ここにいていい？」
　も、と言ったところで舌がもつれる。
「もちろんだよ！」
「ありがとう」
「そうだ、重箱、なんか食べてく？　母さんの手作りなんてお口にあうかわからないけど……」
「いいの？　じゃあ、大福もらっていい？」
「どうぞ。苺大福だから」
「やった！　苺大福大好き！」
　このときステージから大きな歓声があがった。
　末明せれね（瑠奈）が登場したのだ。
　しばらくは言葉もなく、せれねの歌を聴いた。
「去年もこうして一緒にステージを鑑賞していたよね」
　つぶやくように彰尋は言った。だからあおいもつぶやくように、
「うん。そうだったね」
　と返した。
「来年……」
　言いかけて彰尋は一呼吸おく。あおいがこちらを向くのにあわせて、
「来年はあおいさんと二人で、桜を見に行けたらいいなと思ってる」
　あおいは小さくうなずいた――ように見えた。
　けれどもイエスともノーとも答えぬまま彼女は、
「曲、終わったね。そろそろ行かなきゃ」
　と言って立ち上がったのだった。
「さすがにののこちゃんも、あんまり空けたら心配するし。迷子になったんじゃないかーって」
　いたずらっぽく笑う。
　じゃあ、と手を振るあおいに、彰尋も手を振り返すしかない。
　しまった。
　あおいの姿が消えてから、彰尋は額に手を当てた。
　野々さんのところまで送ってくよ、って言えばよかった――かな。