【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　すごいなあ、と言ったきり英二はしばし絶句した。
「夢宮さん……いや、ステージ上だと末明せれねさんと呼ぶべきかな？　せれねさんはもう、そこにいるだけで神々しいくらいだよ」
「だよねえ！」
　ののこは両手をレジャーシートについて前進した。
「瑠奈ちゃん……絶対すごいアイドルになると思う」
　ののこはスマホを取り出して瑠奈（せれね）を包むステージを撮影し、
「英二くんも撮ろっ！」
　と英二と肩を並べ、自分たちに向けてシャッターを切った。
「あ……うん……」
　伸びたののこの髪が頬に当たる。ののこは甘い、バニラのような香りがした。
　これまでとは違い、ステージにはバックバンドが入っている。ドラムにギター、キーボードにベース、いずれもセッションミュージシャンが配置されていた。
　ドラムスがビートをきざむや間もなく、ステージサイドのスピーカーから、いまの気分にぴったりの音楽が流れ出す。爪先でリズムをとって、せれねはマイクを握り直した。

「毎日がそう　新しい世界に見える
　みんなが一緒だから　どこまでだっていけるの

　いつだってそう　新しい生活を知ると
　立ち止まっていられない　どこまでもい・こ・う・よ！

　今キミと歩む世界
　今ボクが暮らす世界
　祝福するのはそう　桜色の花びら

　楽しもう　このステキな時間を
　楽しもう　このステキな時間を」

　春だから，桜のシーズンだからこそ映える曲、いまや言わずと知れたせれねの代表曲だが、元は二年前、瑠奈が一年生のときに新歓祭で唄った歌だ。
　あの頃は、と瑠奈は思う。
　なにもわからないまま進んでた。
　でも、いまここにいるのは、こうして歌えているのは、成長した証なんだろうな。
　曲が終わると同時にターンしてポーズ、待ってましたとばかりに声援が飛んだ。瑠奈は、いや、せれねは、嵐のような拍手に包まれている。
　一昨年の新歓祭はもちろん、去年と比べても反応は大きい。
　暗くなるのは簡単だけど、とせれねは思った。
　あたしはみんなと一緒に盛り上がって、みんなと一緒に楽しい世界をいきていたい！
　なんて、わがままなのかな？
　歓声が止むよりも先に、今度はキーボードがイントロを奏でだした。これはカバーだが、誰でも知っている名曲だけあって反応たるやすさまじい。
「いっしょにうたってね！」
　マイクを握ってせれねは、自分を見つめるたくさんの顔に向かい合う。
　私はアイドル。
　二年前のあたしからとっても前に進んでる。
　いろんな経験が私を成長させてくれてる。
　私を育ててくれてるのは、きっと寝子島全部。
　まだまだ狭い範囲かもしれないけれど、ファンといってくれる人もいて。
　だから私はうたい続けて、もっともっと、みんなを幸せな気持ちにしなきゃなって。
「がんばっていこー！」
　せれねは、何百人のオーディエンスを軽く上回る声量で唄いはじめた。