夢をおとどけ、ふくびきや｜リアクション

夢をおとどけ、ふくびきや

　光村千恵は立ち寄ったふくびき屋で、がらがらを回したのだが、気づけば辺りは夜になっていた。しかも、そこは寝子島ではない-。夜景が綺麗な大都市だった。
「あれ」
　夜風が心地いい。高めのビルの屋上だった。そして手に何か持っている。
「綺麗」
　手のひらサイズのハート型ダイヤモンドだった。月にかざすと、ピンク色の光がちらつく。
　自分の格好を見ると、ぴっちりとした黒の水着のような服と目元を猫耳の覆面を身に着けていた。
　と、後ろに複数の気配が。
「え？」
　振り返る。
「見つけたぞ！」
　警官達だった。
「……ん？」
　手には綺麗なダイヤモンド、何故か屋上、動きやすい服装と覆面。
(もしかして私がこれを盗んだことになってる！？)
　慌てて言い訳をしようとするが、
「怪盗クロウキャッツ！　宝石は頂いたわ！」
　決めポーズでキラン！
（口が勝手に！？）
　警官達は身構えていた。
「バカにしおって！」
　リーダーらしき警官が唸るように言う。
（あああああ、違うのにぃ。こんなことで捕まるなんて、お兄ちゃん達に顔向けできないよう）
「かかれー！」
「うあっ」
　突っ込んでくる警官を避けるべくジャンプすると思ったより数倍体が軽かった。飛んでいるわけではない、しかし、体を包む浮力が半端ではない。
　千恵は一度屋上の手すりに飛び乗ると、隣のビルへ飛んだ。
「こ、これなら逃げられるかも」
　ダイヤモンドは仕方ないのでこのまま持っていくことにした。
　ビルやマンション、その他-色々な建物を飛び越えて、ひたすら逃げる。
　とある構想高層マンションの一室のベランダへ降り立った時である。
「あ」
　ガラスに映った自分の姿が十八、九歳の美女になっていることに気づいた。髪型はポニーテールである。一番気になるのは、
（やった……！　胸が膨らんでる！）
　将来に希望が持てるというものだ。
　すぐにヘリコプターの音が聞こえ始めた。ライトが知恵を捉える。マンションの下には警官隊が集まっていた。
「マズイ」
　手すりに飛び乗って飛ぼうとした時、手を引かれた。
「え！？」
　ここまで警官が来ていたのだろうか。慌てて振り返ると、部屋へと引き込まれる。
「この部屋から非常階段へ向かって逃げれば見つからないよ」
　赤毛の青年だった。
「あ」
　このベランダへ降り立った理由が分かった。
（なんだ今の私はこの人が好きなんだ）
　
　彼のために、ラブレターを渡す前に恋に効く、宝石の力を借りたかったんだ。

　千恵は胸に手を当てて、心配そうな青年に笑いかけた。
「ありがとう、かばってくれるの？」
「君と、また会えてよかった」
　会ったことがあり、彼も気になっていたのだろう。
　青年は千恵の手を引いた。玄関へと連れて行かれる。
「早くしないと見つかるかもしれない。君には捕まってほしくないんだ。それにまた会いたい」

（ねえ、私？　あなたの恋はこのダイヤモンドに頼らなくてもきっと大丈夫。叶うよ）

　だから、こんなことをしちゃダメ。そう強く念じ、彼の手を握る。
「また会おうね」
「うん、待ってるよ。君のことを」
　青年に背を向け、部屋から飛び出る。
「いたぞ！」
　警官達の声、銃声。それを素早く避けて、非常階段へ。床を蹴る。
　そして気付けば、そこは寝子島だった。

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