夢をおとどけ、ふくびきや｜リアクション

夢をおとどけ、ふくびきや

　がらがらを回した篠原翠響は道を傾げた。回した瞬間に夢を見られるという話だったが、
「なんだったんだろ」
　いつの間にか店主もいなくなってしまったので、店を出ることにしたのだが。
「！」
　外は既に寝子島まではなかった。遠くに地平線に見えるのはオレンジ色の夕日、妙な形のサボテンが立ち、ごつごつした足場が広がっている。
　見ると、自分も西部劇のガンマンのような恰好をしていた。腰にさした銃は中々の重さがある。
「へえー、本当に夢の中なんだ」
　西部劇の雰囲気漂う商店街は平和だ。雰囲気がある。
「ん？」
　前方の建物の前に人だかりができていた。看板を見ると、保安官事務所だ。
　人だかりに近づいてみる。
　どうやら新しい手配書が張られ、賞金の額が凄いらしい。
「良く見えないけど」
「あなた、賞金稼ぎ？」
　隣に立ったドレスの女性が不安そうに声をかけてきた。
　自分が賞金稼ぎなのか定かではないが、手配書をじっくりと観察している柄の連中と似たような恰好をしているので、その役なのかもしれない。
「えっと、そうですけど」
「やっぱり。話しやすい人がいて助かったわ」
　すると、彼女はポケットから手配書を取り出した。
「貼ってあるものと同じよ」
　見て見ると、
「あ？」
　第一印象はイケメンの男だが……翠響は目を細めた。
「印象うっす」
　目を離すとすぐ記憶から消えてしまいそうな影の薄い人相だ。賞金首で凶悪な銀行強盗、クロコップ。
　過去何人もの賞金稼ぎから逃れてきたらしい。
「相当強いんですね」
「いいえ」
　女性は首を振って、
「印象が薄すぎて誰もこの男の顔を覚えられず、捕まえられていないんです」
　すんなり納得できてしまう。何故なら見せられた手配書から目を離した瞬間に記憶からすり抜けるのだ。
「これは、凄いですね」
「もはや特殊能力です」
　女性はハンカチで目元を拭う。
「銀行に預けていた父のお金が盗まれてしまって……捕まえてほしいんです。でも、顔を覚えなられないから無理だという賞金稼ぎの人が多くて。こうして手配書をコピーしたのでお願いできませんか？」
「そういうことなら」
　手元に手配書があれば、少しはましかもしれない。
「お礼はします。お願いします」
「わかりました。このクロ……クロ」
　さっそく手配書を見ると、ピントが合うまで少しかかった。
「そう、クロコップ！」
　前途多難だ。
　女性と分かれ、聞き込みをするも、首を傾げる人ばかり。
「そうだっ」
　手配書に髭を描いて見ることにした。カイゼル髭である。
「ああ！　これは」
　急いで通行人にそれを見せてみる。
「この男なんですけど」
「……髭が立派ですね」
「この髭を消した顔を探してるんですけど」
　その方法は功をそうした。どうやらクロコップは町外れの農場に住んでいるようだ。
　さっそく乗り込むことにした。
　農場のそばの木屋のドアを勢いよく開く。
「クロなんとか、覚悟！」
　そこには印象の薄い男がいた。
「何！？」
　翠響は銃を抜き、構える。手配書を見る暇はないが、この男で間違いないだろう。
　足を狙って引き金を引くが、
「ああ！？」
　銃弾がかすったそれは、いつの間にか顔写真の貼られたマネキンにすり替わっていた。
「気づかなかった……！」
　薄すぎる顔故、標的が定まらない。しかし、銃の腕はおろか、運動神経も悪い。外へ逃げ出したクロコップを追う。
「逃がさない」
　秘密兵器、先が輪っかになっているロープを取り出した。
「よーし」
　頭上でぐるぐると回し、
「はあっ！」
　勢いよく投げる。
「くそっ」
　避けようとしたクロコップだったが、足がもつれてしまい、ロープに捕まって動けなくなったのだった。
「やった」
　そこで意識が浮上。
　気づけばそこは寝子島で、
「あ……お礼ってなんだったんだろ」
　翠響は寝ぼけ眼でそんなことを考えた。

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