夢をおとどけ、ふくびきや｜リアクション

夢をおとどけ、ふくびきや

　水守流ははっと気づいて辺りを見回した。立ったまま気絶でもしていたかのような感覚だ。
「どこだ？　ここ」
　寝子島で見つけたふくびき屋なる店でガラガラを回したところまでは覚えている。しかし、今いるのは遊園地のような場所である。
　眩しい青空、穏やかな風、流以外に人影はないが、楽しげな音楽が辺りに響いている。
「遊園地の夢ってわけか」
　せっかくなのでぶらぶらと散歩してみることにした。
「お、マスコットがいるのか」
　ウサギタイプのマスコットらしい。近づいてきて、手を振って来る。
「こーんにーちはー！」
　すかさず録音されたらしき声が流れた。
「よし、記念撮影でも」
　流はスマホを構える。しかし、
「！？」
　画面越しに見ると、ウサギマスコットが血まみれだった。いつの間にか手には斧を持っている。
「おいおいおいっ！」
　慌ててスマホのカメラを落とすが、マスコットは画面に映ったままの姿に変わっていた。
「ぐっろ！」
「ごーんにーちわぁ」
　録音音声にノイズが走り、バグったかのような声が出る。
「しーんでーくーれー」
「！　嫌に決まってんだろ」
　斧を振り回しながら迫ってくるので、流は慌てて駆け出した。
「どうなってんだよ」
　よく見ると、遊園地の床、所々に血だまりが出来ている。
「あっ、すみませーん、ここどうなって」
　床を掃除しているスタッフに声をかけようとしたのだが、動きがおかしい。そして腐臭がする。
「うー……うー」
　唸るような声に流は息を飲んだ。振り返ったスタッフの顔は緑色に変色し、半分溶けている。
「ひっ」
　思わず口から悲鳴が漏れそうになった。と、その時、ヒュンと風を切る音がして、目の前のスタッフの首が飛んだ。
「ふおおおおっ」
　追いかけてきていたウサギが斧を投げたのだろう。クリティカルヒットだった。と、肩に手を置かれる。
「え？」
　振り返ると、口から血を流した金髪の女の子がにやりと笑っていた。可愛らしいエプロンドレスに血がぽたぽたと垂れている。
「うおっ」
　先ほどから鳥肌が立ちっぱなしだ。
　女の子の手を振り払って逃げる。建物の中に逃げ込んだ方が良さそうだが。
「よし、あそこにしよう」
　前方の建物を目指す。
　体当たりをするように、建物の中へと突っ込む。
　扉を閉めて、鍵をかけ、はぁっと息をついた。
「よかっ……は！？」
　そこはホールのような空間で、壁には無数の絵が飾ってある。
　まるでホー◯テッド◯ンションの入り口付近の部屋のようだ。不気味なBGM、薄暗く、絵を照らすろうそくの炎、どう見ても美術館ではない。
「こ、これは……ホラーハウスってやつか！？」
　と、絵の中の人物達の口許に笑みが浮かび、ささやきあう声が聞こえだした。
「っ！」
　早く出なければ。そう思い、鍵を外すも扉は開かない。すると、入り口とは反対側の扉が開いた。奥へ誘われているのは確かだ。
「す、進むしかねぇか」
　囁く絵達の声を聞かないようにしながら扉の向こうへ飛び出す。
「うへー……」
　長い一本の廊下の先は闇に包まれており、左右の壁には絵がずらりと並んでいる。
「マジかよ」
　しかし、迷っている暇はない。この先に出口があると信じて。
　流は駆け出した。
　この廊下にまで囁き声が聞こえ始めた。
「くぅ、頭がおかしくなりそうだ」
　何せ、耳をふさいでも聞こえてくるのだから。
「うおっ！？」
　何かにつまずいて転んでしまった。
　床に転がりながら振り返ると、
「ひぃっ」
　足首をがっしりと掴む絵の中の女性と目が合った。彼女は壁の絵から半分だけ体を出して、腕を伸ばすと流を掴んでいたのだ。
　そして聞こえてくるうめき声。
　今来た道から無数の這う人間達が追ってくるではないか。恐らく、ホールの絵から出てきたのだろう。
「離せーっ」
　どうにか振り払ってとにかく走る。前方に光が見えてきた。
「やった！？」
　何がどうなっていようと関係ない。流は飛び込むように光の中へ。
……。
…………。

　そして、
「！」
　気づけば寝子島のシーサイドタウンに立っていた。

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