夢をおとどけ、ふくびきや｜リアクション

夢をおとどけ、ふくびきや

　北条冬華は戸惑っていた。改めて自分の状況を確認する。
　ここは純粋な白と黒の色が支配する空間、冬華の格好は誰が見ても扇情的な服装だった。遠目に見ればバニーガール。しかし、本来は覆うべき場所の布を切り落としてしまったような逆転バニースーツ姿だ。
　慌てて体の一部を隠しながら辺りを見回す。
「あ」
　光の中、誰かが近づいて来るのが見える。
　目を細めると、その人物は目の前に立った。
「……え？」
　それは友人に似た女の子だった。彼女は通常バニーガール姿である。手には薙刀を持っていた。
　彼女は真っすぐに冬華を見ている。
「まし……いや、絶対違いますよね！？　これはその、誤解です！　違うんです！」
　やってきたのが男性でなくて本当によかった。しかし、お風呂なら隠さずとも良いが、この服装で全開だと変態味を増してしまう。
「あ、あの、なんでそんな物騒なものを？」
　聞かずとも分かっている。彼女はおそらく、本物の友人ではないのだろう。
「ふふ、本物かもよ」
「！　なんで考えてることが？」
「私に勝ったらわかると思う」
　女の子はそう言って、身構えた。
「なんで、薙刀……」
　刃物を避けながらボクシングスタイルで戦闘をするのは極めて難しそうだ。
「こんなことなら本格的なキックボクシングを習っておくべきでした」
「怪我させるつもりはないよ。一糸まとわぬ姿にしてあげるからねー！」
「わりとあんまり意味ないですよ、それー！」
　薙刀をぶんぶん振って服を狙ってくる。
「ど、どうしたら、やっぱり女の子さんじゃないですね？」
　とりあえず、前を隠しながらひたすら走る。
「逃げても無駄だよー」
　薙刀をブンブン振り回す女の子。服よりも命を狙われている気がしてならない。
「はぁはぁ」
　この空間の終わりはどこにあるのだろうか。
「外は……あ、いや、外に放り出されるのはマズイですね」
　こんな格好を大衆にさらすわけに行かない。
　と、そんなことをかんがえていると、
「！？」
　今、何かの横を通りすぎたような。
　振り返ると、遠くから女の子が追いかけてくるが、その手前に、正方形の窓があったのだ。かべや床や天井は一体化しているが、窓周辺だけ確かに壁がある。
　覗いてみると、
「外に出れそうです、けど」
　窓の外に広がっているのは昼間のシーサイドアウトレットである。人混みが凄い。
「……寄りによってここですか」
　窓の外へ飛び込むかどうするか考えたいところだが、女の子が迫っている。
「冬華ちゃん、覚悟ー！」
　振り下ろされた薙刀をバックステップでかわした冬華はボクシングの構えをとった。と言っても左手は下を隠し、右腕の肘でぎゅっと寄せて右おっぱいを隠し……そう、左おっぱいは犠牲になったのだ。
　冬華は薙刀を横にかわすと右ストレート。寸止めで驚かせ、その隙に薙刀を奪ってしまおう。
　と、その時。
『逆バニー制御装置解放します』
　その瞬間、右ストレートから突風が起こった。
「！？」
　何故だかさっぱりわからなかったが、女の子は後方へ吹っ飛ばされる。
「な、なんかすみません。でも、それは没収しますっ」
　倒れて動かなくなった女の子に歩み寄ろうとして、肩に手を置かれた。
「どうしたの？　冬華ちゃん？」
　薙刀を持ったもう一人の女の子がにやりと笑った。
　なんとも支離滅裂な夢である。
「さぁ、ウサ耳とハイヒールだけのバニーガールにしてあげるからね」
「高度な変態みたいで嫌ですー！」
「覚悟ー！」

……
…………。

　そして、最終的に例の窓から夢の中のシーサイドタウンへと突き落とされたのだった。
「大丈夫、夢だから。行ってらっしゃーい」
　人混みの中に落とされながら、思う。
「ああ、なんか色々終わったって感じです」
　うっすらと涙が浮かんだところで、はっとした。
　気づけばそこは元の寝子島だった。

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