おもちゃ屋さんに行こう！｜リアクション

おもちゃ屋さんに行こう！

「ハローニャックよ、私は帰ってきたあ！　……とでも言うべきでしょうかね」
　こういうときは、と言って三佐倉千絵は連れを振り返った。
　なんだか燃えている様子の千絵だ。瞳に炎が宿っていた。これから戦いに行くわけでもあるまいに、と白真白はなだめる。
「今日は楽しもうよ。ライバル店だなんて敵視しなくてもさあ」
　千絵の実家であり彼女が店長代理をつとめる『クラン＝G』と、『ハローニャック』の販売物は重なるものが多い。といっても前者が、大抵の客が徒歩かせいぜい自転車で来店する地域店なのに対し、後者は自家用車またはバス（無料のシャトルバスもあるが停留所が限られている）での来店を前提とした郊外型大型店なのだ。そもそもの商圏と対象顧客がちがう。あせる必要はないと思う。
「ね、だからお目当てのものを探しにきたくらいの気持ちでいればいいじゃない？　そう考えるとワクワクするでしょ？」
「まあ……そうなんですけど、ウチより安いものがあったりしたら、ちょっと悔しいかなって……」
　このどうしようもなく負けず嫌いなのは千絵の性分らしい。やっぱりどこか浮かぬ顔なのだった。
　服装という意味でも真白と千絵は対称的だ。
　真白はまさしく白がベース。スノーホワイトのオーバーサイズセーターに白い靴下、ショートパンツを履いているがこれはセーターの丈に隠れていた。くわえてコットン製、長丈の襟なしコートをはおるお嬢様風コーディネート。もちろんコートの色調も白だ。雪の精みたいにキュートだった。

　ところが千絵はスパイ活動のイメージというか、ベースボールキャップからジーンズ、はおっているパーカーに至るまで全て黒なのだ。履いているバッシュまで黒なのはどうしたものか。唯一インナーだけ黒白のボーダーだが、総じてモノトーンの世界の住人のようだった。いささかボーイッシュでもある。
「入る前に案内板を見ようよ」
　千絵の手を引いて真白は店内マップを見る。
　とかく広大な二階建て、玩具類はほとんど全部一階で、二階は赤ちゃん用品やチャイルドシート、保育園に置く規模の大型遊具や自転車などが占めている。
　中央は吹き抜けになっており、二階まで届くメリーゴーランドと、これを囲む休憩所が設置されていた。トイレはこまめに置かれておりすべてバリアフリーかつオムツ交換コーナーつき、カフェやファミレスも東西のはしにそれぞれ大きいのがある。
　売り場は、どちらかといえば女の子向けエリア、同様に男の子向けエリア、とざっくり別れているがこれはあくまでおおまかな分け方にすぎず、はっきりとした性別の壁は設けないようにしているようだ。男女ともに人気があるジャンルも多いし、双方の交流を大事にしたいと考えているのかもしれない。女の子がプラモを買うのがおかしかった時代、男の子が人形やぬいぐるみを買うのがおかしかった時代はもう前世紀の話なのだ。
「なるほど、種類というかジャンルによってエリアが分かれていると……」
　扱っている作品ごとに別れている雰囲気だった。『プラモデル』と『ニャンプラ』が別れているあたりはさすが大型店といえよう。
「じゃあ行こっか」
　と歩き出して、真白は目をしばたたいた。
「ここやっぱり広いよねぇ」
　マップでつかんだ距離感と実際が全然ちがう。地図ではすぐ目の前にあるイメージだったコーナーが、実店舗でははるか先だったりする。
「なんどか来たことはあるけど全エリア回るだけでも結構かかっちゃうんだった……」
　休憩所がどのエリアからもアクセスしやすい中央にあるのも、理由があってのことなのだ。
「じゃ、まずどのエリアを見に行こうか？　やっぱりプラモデルのエリア？」
「そうですね」
　どうにもリラックスしきれていない表情で千絵はうなずいた。

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