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まかい探訪記 第二集
「ええい、性懲りもなくまたきおってからに！」
轟々と渦巻く熔岩からの熱気を弾き飛ばす勢いで、竜姫の凛とした声が聞こえた。
先程よりも声が聞こえるようになったのは、あの可憐な姫がひどく激昂して声を張り上げているがためか。
「いい加減うちの領域に勝手に入ってくんな！ この駄龍！！」
マグマの吹き上がる夜空に高らかに響き渡る竜姫の罵声はまるで、縄張りを荒らされて怒る子猫──否、己よりも遥かに巨大な竜種に向けての凄まじい罵倒は、竜の姫に相応しい胆力だ。
目前に羽ばたき吼える竜姫を前に、フェラマは聳える山岳が如き鷹揚な笑みを浮かべる。
遠目に見ていても分かった。その笑みの底には、どうしようもなく凶暴な力がそれこそ熔岩のように燃え盛っている。
「やっぱり良い度胸ね、蠅のように薙いで……」
竜姫に応じ朗々と声を放ちかけて、竜族の女はつと、焔の色宿した瞳を瞬かせた。そうして確かに、私を見た。
巨大な彼女からしてみれば、虫けらじみて小さなまものであるはずの私を、確かに見止めた。
瞬間、私は、熔岩に触れたかのように己が身の燃え上がる情景を幻視した。まなざしのひとつでちっぽけなまものひとりを圧し潰すほどに、それほどまでに、彼女の力は強大だった。
「……くれる前に、貴公に客人だ宝石の」
息を詰まらせ冷や汗を流す私に気づいてか、フェラマは私から視線を離してくれた。未だ猛る竜姫を前にする瞳に、先程見た闘争心の炎上は見られない。
ふと、フェラマは笑った。それは 焔を深く沈め草木を遊ばせる休火山が如き涼しげな笑み。
「或いは我にも、なのやも知れぬが」
私に気づかぬ様子で苛々とフェラマを睨み据えていた竜姫の表情が変わる。驚くほどの早さで私を見たかと思えば、恥ずかしいところを見られたとばかりばつが悪そうに視線を逸らし、
「……何？ 客？ しるかし！ そっちから仕掛けてきといて、……」
感情のままに言い散らかして、その途中で今度こそ我に返る。竜姫としての立ち振る舞いに思い至ったか、コホン、と咳払いをひとつ。
「久方ぶりだな、語り部」
インペリアルトパーズに彩られた翼を羽ばたかせ、蜜色の結晶の生えた尾を優雅に揺らめかせ、姫の名に相応しい口調で美しく微笑む。
「此度は何用か？」
可憐でありながら下手をすればすぐさま焼き尽くされてしまうかもしれない竜族の女たちのまなざしを受け、私は居住まいを正す。
竜姫の優しさを知っているのが、唯一の救いと言えば救いだろうか。今も、竜姫は熔岩地帯に迂闊に踏み込んで満身創痍となった私を心配してくれているようにも見える。
先に近づいてきた竜姫の後を追うように、フェラマの巨大な肢体が急速に縮んだ。熱を帯びた風が一帯に吹き荒れる。
その巨大な身に孕んでいた膨大な熱を空へと放ち、フェラマは宝石竜の姫と同じほどの身丈となる。それでも、華奢な印象を受ける竜姫に対し、フェラマの身はまるで鍛え上げた鋼のようなしなやかな強靭さを纏うている。
「竜姫と戯れに手合わせを始めようとしていた所であったが、人の子の前であれば一旦収めよう」
じゃれ合うにしてはぶつかる力が強大過ぎはしまいかと、先程までの壮絶な光景に思うも、竜族にとっては些末事であるのだろう。
くすり、フェラマは小さな笑みを零した。
「互い威厳の欠片もない言の葉の投げ合いを聞き伝えられてはたまったものではないからな」
物静かに放たれた言葉に凄まじい重みを感じ、私は大きく首を横に振る。何も聞いていないと、伝えたりしないと言い募る。されど、竜族の棲家であるこの過酷な地を訪れたには確かな訳がある。
「話を、……貴女たちの話を、聞きたい」
客人か、とフェラマは頷いた。
「ならば、危険な目に遭わせてはお互い面子が立たぬな」
フェラマの目配せを受け、竜姫は不機嫌そうに小さく息を吐く。それでも、
「此処は人の子が身には酷であろう。饗に相応しい場所へ移すぞ、宝石の」
フェラマの提案に否やは唱えなかった。嫌々な顔をしながらも、彼女の領域へ共に移動することに同意してくれる竜姫の、どこか気づかわしげな瞳が私に向けられていることに気づき、思わず笑う。
「卑小なまものの身なれば高貴な貴女方の焔は眩く過ぎて、なればこそこの身がいくら焼かれようと構いません」
吟遊詩人の名に恥じぬよう幾許か芝居じみて一礼してみせれば、竜の姫はほんの少し拗ねたような顔を見せてくれた。
「語り部が語り部たるは語ってこそぞ。語らず死ぬは妾が許さぬ」
「承知いたしました、竜の姫君」
轟々と渦巻く熔岩からの熱気を弾き飛ばす勢いで、竜姫の凛とした声が聞こえた。
先程よりも声が聞こえるようになったのは、あの可憐な姫がひどく激昂して声を張り上げているがためか。
「いい加減うちの領域に勝手に入ってくんな！ この駄龍！！」
マグマの吹き上がる夜空に高らかに響き渡る竜姫の罵声はまるで、縄張りを荒らされて怒る子猫──否、己よりも遥かに巨大な竜種に向けての凄まじい罵倒は、竜の姫に相応しい胆力だ。
目前に羽ばたき吼える竜姫を前に、フェラマは聳える山岳が如き鷹揚な笑みを浮かべる。
遠目に見ていても分かった。その笑みの底には、どうしようもなく凶暴な力がそれこそ熔岩のように燃え盛っている。
「やっぱり良い度胸ね、蠅のように薙いで……」
竜姫に応じ朗々と声を放ちかけて、竜族の女はつと、焔の色宿した瞳を瞬かせた。そうして確かに、私を見た。
巨大な彼女からしてみれば、虫けらじみて小さなまものであるはずの私を、確かに見止めた。
瞬間、私は、熔岩に触れたかのように己が身の燃え上がる情景を幻視した。まなざしのひとつでちっぽけなまものひとりを圧し潰すほどに、それほどまでに、彼女の力は強大だった。
「……くれる前に、貴公に客人だ宝石の」
息を詰まらせ冷や汗を流す私に気づいてか、フェラマは私から視線を離してくれた。未だ猛る竜姫を前にする瞳に、先程見た闘争心の炎上は見られない。
ふと、フェラマは笑った。それは 焔を深く沈め草木を遊ばせる休火山が如き涼しげな笑み。
「或いは我にも、なのやも知れぬが」
私に気づかぬ様子で苛々とフェラマを睨み据えていた竜姫の表情が変わる。驚くほどの早さで私を見たかと思えば、恥ずかしいところを見られたとばかりばつが悪そうに視線を逸らし、
「……何？ 客？ しるかし！ そっちから仕掛けてきといて、……」
感情のままに言い散らかして、その途中で今度こそ我に返る。竜姫としての立ち振る舞いに思い至ったか、コホン、と咳払いをひとつ。
「久方ぶりだな、語り部」
インペリアルトパーズに彩られた翼を羽ばたかせ、蜜色の結晶の生えた尾を優雅に揺らめかせ、姫の名に相応しい口調で美しく微笑む。
「此度は何用か？」
可憐でありながら下手をすればすぐさま焼き尽くされてしまうかもしれない竜族の女たちのまなざしを受け、私は居住まいを正す。
竜姫の優しさを知っているのが、唯一の救いと言えば救いだろうか。今も、竜姫は熔岩地帯に迂闊に踏み込んで満身創痍となった私を心配してくれているようにも見える。
先に近づいてきた竜姫の後を追うように、フェラマの巨大な肢体が急速に縮んだ。熱を帯びた風が一帯に吹き荒れる。
その巨大な身に孕んでいた膨大な熱を空へと放ち、フェラマは宝石竜の姫と同じほどの身丈となる。それでも、華奢な印象を受ける竜姫に対し、フェラマの身はまるで鍛え上げた鋼のようなしなやかな強靭さを纏うている。
「竜姫と戯れに手合わせを始めようとしていた所であったが、人の子の前であれば一旦収めよう」
じゃれ合うにしてはぶつかる力が強大過ぎはしまいかと、先程までの壮絶な光景に思うも、竜族にとっては些末事であるのだろう。
くすり、フェラマは小さな笑みを零した。
「互い威厳の欠片もない言の葉の投げ合いを聞き伝えられてはたまったものではないからな」
物静かに放たれた言葉に凄まじい重みを感じ、私は大きく首を横に振る。何も聞いていないと、伝えたりしないと言い募る。されど、竜族の棲家であるこの過酷な地を訪れたには確かな訳がある。
「話を、……貴女たちの話を、聞きたい」
客人か、とフェラマは頷いた。
「ならば、危険な目に遭わせてはお互い面子が立たぬな」
フェラマの目配せを受け、竜姫は不機嫌そうに小さく息を吐く。それでも、
「此処は人の子が身には酷であろう。饗に相応しい場所へ移すぞ、宝石の」
フェラマの提案に否やは唱えなかった。嫌々な顔をしながらも、彼女の領域へ共に移動することに同意してくれる竜姫の、どこか気づかわしげな瞳が私に向けられていることに気づき、思わず笑う。
「卑小なまものの身なれば高貴な貴女方の焔は眩く過ぎて、なればこそこの身がいくら焼かれようと構いません」
吟遊詩人の名に恥じぬよう幾許か芝居じみて一礼してみせれば、竜の姫はほんの少し拗ねたような顔を見せてくれた。
「語り部が語り部たるは語ってこそぞ。語らず死ぬは妾が許さぬ」
「承知いたしました、竜の姫君」
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2020年12月26日
- 参加申し込みの期限
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- 2021年01月02日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2021年01月02日 11時00分
