プールびらきはサニーデイ｜リアクション

プールびらきはサニーデイ

　さてここで、超がつくほど張り切っているガールを一人、紹介しましょう。
「ふおぉー！　今日は待ちに待ったプール開き！」
　そのままブリッジするような勢いで仰け反った彼女は、体育科の2年生回転院環です。
　やる気で胸がはち切れそう、パッションで燃え上がりそう、それほどに待ち望んだこの日でした。
「たまちゃん、楽しみすぎて制服の下に水着着てきたよ！　お洒落なビキニ！　準備運動なんてもう午前の時点で済んでるんだぜー！」

　スーパーヒーローがやるように、走りながら制服を脱ぐとその下からコスチューム……もとい、水着が現れました。
「ぐるぐるおめめのコンタクトも外して！　持ってきたビーチボールも膨らませて！」
　宣言しながらその言葉通りの行動を行います。
　どっぱーん！　プール側の更衣室ドアを開け放ち、シャワーを浴びてプールサイドへ。
「さあ！　準備は完了さー！　全身全霊でプールを楽し――」
　ここで環は絶句しました。
　ある少女の姿が目に飛び込んできたのです。
　あまりに衝撃的……なんというセンセーション、頭に稲妻が落ちたようなショックでした。
　それは環にとって、運命的な出会いでした。

　さてここで、超がつくほど張り切っているガールをもう一人、紹介しましょう。
「プール開きの日は午後からはプールで遊び放題だなんて、理事長も粋でいなせで酔狂ねっ！」
　はいやーっ、と壁を突き破る獣のように高速着替えを終えた彼女は、芸術科の2年生種子島タネです。
「その心意気に応えるためにも、全身全霊をこめて全力で遊ばないと失礼ってもの！」
　挑戦、これは挑戦、どう考えても挑戦です。理事長からの、あるいは運命からの！
「しかしプールに入るということはメガネを外すということ……メガネを外すということはこのタネちゃんにとって死を意味する……ッ！」

　宣言しながらタネは、装着していたメガネを取り去ります。危険！　まあ、すぐに度の入ったゴーグルに変えたので問題はなかったりするのですがね。
「さぁ待たせたなプール！」
　どっぱーん！　プール側の更衣室ドアを開け放ち、シャワーを浴びてプールサイドへ。
「準備運動？　そんなものプールまで走ったことで既に済んでいるのだわっ！　良い子のみんなは真似しちゃダメよっ！　そして満を持しての――」
　ここでタネは絶句しました。
　ただならぬ気配を感じたのです。ふりかえって、彼女を目撃したのです。
　あまりに衝撃的……なんというセンセーション、足元から火山が噴火したようなショックでした。
　それはタネにとって、運命的な出会いでした。
　
　対峙する環とタネ。
　あるいはタネと環。
　見つめ合う瞳と瞳……二人の間に冷たい風が吹き込みます。
　――あれ、あの子、そう、今目があったあのメガネの似合いそうな子。
　――たしか2年の……誰だっけ？
　――姿形は似ても似つかないしお話したこともないけど！　でも！　他人とは思えないこの感覚！
　――っていうか他人の気がしないむしろ生き別れの一卵性双生児的な……！
　二人の想いが交差します。いえ、激突して火花を散らします。
　一言も言葉は交えていませんが、もう会話しているに等しい状態でした。相手の考えが手に取るようにわかりました。環も、タネも。
　先天的に知っているのです。互いが、互いのライバルなのだと。
　互いが互いにとって、宿敵として生を受けた存在であると……つまり、キャラかぶりしてるじゃんと！
　無言で環はビーチボールを眼前に掲げました。
　これはサインです。
　タネはうなずいてプールにおりました。
　そして、いずれともなく合図すらなく水球が始まったのでした。
　問題は二人とも水球のルールをてんで知らなかったということですが、なんとなくフィーリングで、奪っては投げ、投げては追っての謎勝負が火蓋を切ったのです。
　相通じる二人に言葉は不要。一言もきかぬまま、真剣勝負を繰り広げます！

このページにイラストを設定する