プールびらきはサニーデイ｜リアクション

プールびらきはサニーデイ

　プレゼントの入った紙袋を開けるときのようなそわそわは、昼を告げるチャイムとともに最高潮に達しました。
　わっ、と声を上げたい感じ。駆け出したい感じ。
　プールです。プールびらきの時間です。
　今日の授業は午前中でおしまい。「初夏」もいわばここでおしまい。気の早い人はもう、大急ぎで昼食を片付けていました。
　後木真央もその一人でした。

　パンを加えながらの疾走としてはちょっと記録的なタイムで、彼女は猫鳴館に戻ったのです。
「箱は空っぽ間違いなし！　……なのだ」
　ガッ、と効果音をつけたくなるような勢いで、数日前から用意して置いた段ボール箱をのぞきます。
　この箱には、真央が用意しておいた『あるもの』が山ほど詰められていたのでした。
　素敵な素敵な『あるもの』が。
　箱の中身がすっかり消失していると信じて疑わなかった彼女なので、眉を曇らせる結果になりました。
「おかしいのだ」
　むうう、とうなってしまいました。
　全然、減っていないようなのです。もしかして誰も取っていない……？
「みんな水褌（みずふんどし）使ってくれてないのだ」
　水褌とはなにか、その説明は簡単にすませましょう。
　水着としての褌（ふんどし）。以上。
　なおその形状は、六尺褌であることも申し添えておきます。
　褌のカラーは生命の躍動を感じさせる赤一色です。模様はなし、シンプルこの上ありません。
　……その褌をどしどしと用意して、それこそ、猫鳴館の全員が着用しても足りるくらいにして、目立つところにさりげなく、ただしはっきりと『ご自由にお使い下さい。来たるプールびらきでの着用推奨』とまで記して、数日前から置いておいた真央なのでした。
　腕組みして首を横にかたむけます。
　すっかりなくなっていて嬉しい悲鳴を上げる予定が、これではぐうの音も出ないではありませんか。
　けれどもポジティブ・シンキング、真央はポンと手を叩いて納得しました。にんまりと笑います。
「これは使用方法をみんなが知らないからなのだ！　真央ちゃんが使って見せる所から始めるべきなのだ！」
　真央ちゃん頑張るのだ、と一人合点して、彼女は目にもまぶしい赤褌のひとつをひっつかんだのです。

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