【襲来！】

　ずん。
　ずん。
　ずずん！

「ぎゃおお～ん。エロなのです～」
　戦時中は某国によって秘密裏に開発された新型爆弾の影響か、あるいは遺伝子研究の失敗がゆえに生まれた悲しき実験体か。はたまた侵略宇宙人が放ったご都合光線のせいかもしれないし、地底人の未知なるテクノロジーがなんやかんやしたのかもしれません。
　ともかくも巨大怪獣エロ・イーアールオー、寝子島へ上陸！
　海中から脈絡もなく出現し、まずは北海道にて雄大な大地を平らに踏みならし、東北地方をスキップで縦断し、関東圏の高層ビル群は足ツボマッサージにちょうどいいのです～などとうそぶきながら、全てを踏み潰してやってきた怪獣エロは、九夜山へずしんと足をかけました。
　なぜだかナイスバディのマイクロビキニ姿を惜しげもなくさらす巨大怪獣に、寝子島の健全なよいこたちはぽやんと顔を赤らめ、揺れる巨乳に貧乳女子たちは嘆きに暮れるか舌打ちし、親御さんたちは我が子の目を覆いましたけれど、怪獣は誰憚ることなくずずずずずん。
　一体なにをしにきたのか？　ただただ気まぐれな散歩の途中かもしれませんし、寝子島にあるなにかを求めてやってきたのかもしれません……もちろん、誰にも分かりません。巨大な怪獣の思考なんて、ちっぽけな人間たちには計り知れませんもの。

『対怪獣用メーニャー砲、発射～～～！』

　ずびびびび！　人間たちも黙って踏まれるばかりではありません。怪獣の蛮行許すまじ、と出撃した寝子島防衛軍の秘密兵器が熱線を浴びせ始めます。空には戦闘機が編隊を組み、ミサイル攻撃を敢行。ちゅどどん、どばん！
　勇ましい防衛軍の活躍に、テレビで観戦中な寝子島住民たちは歓声を上げました。
　レーザーが飛び交い、そこかしこで爆発が起こり、エロはむっとした顔でほっぺをふくらませます。
　勢いに乗り進軍する防衛軍。その姿は実に頼もしく、人々は彼らに希望を託しました……けれど、ハエのようにたかる戦闘機がうっとおしかったのでしょうか。怪獣がぶおん、手をひと振りしますとぱぱぱぱ、ばぱん！　戦闘機はあっけなくはたき落とされてしまいました。
　ずずずんずずんとシーサイドタウンの端っこへ降り立ったエロ、防衛軍の虎の子メーニャー戦車もあっさりぷちっと踏み潰して、人類の希望はやくも終了です。お茶の間の寝子島住民たちもぬか喜びにがっくりです。
『司令官、応答願います司令官！　防衛軍は全滅！　これ以上怪獣の進行を止められません！　司令官～！？』

『総員退避！　私は司令部と運命を共にする。
アスタラビスタ、ベイビー！
なおこのメッセージは自動的に消滅する。
ニャースと共にあらんことを』

　ちゅど～～～ん！！
「ぎゃ～～～！？」
　そんなわけで、寝子島防衛軍全滅！
　果たして寝子島はこのまま、怪獣に蹂躙されてしまうのでしょうか……！？



　右往左往する首相官邸やら、怪獣と会話ができると主張する自称霊能力少女やら地底人の美人姉妹やらがあれこれとドラマを展開している間、エロは手持ちぶさたのまま九夜山に腰かけておりました。
　腰を下ろした衝撃でシーサイドタウン中の窓ガラスがコナゴナに砕けましたけれど、もちろん怪獣サイズなエロにはそんなちっぽけなことなんて分かりません。
「まだかな～。まだかな～、なのです～」
　足をぶらぶらさせると風圧で寝子島中の車がひっくり返りましたけれど、エロが気づくことはありません。
　どうやら怪獣は、なにかを待っているようです。
「まだかな～。まだかな～～～……あっ」
　でん、でん、でん、でん。じゃん、じゃん、じゃん、じゃん。
　どこからともなく流れ出すメロディを、きっと誰もが一度は耳にしたことがあるはずです。
　ざばばばばっと海をかき分け、出現するもう一体の怪獣。そう世界一有名なジャパニーズモンスター！　パッとしない評判のニャリウッド版映画もよくよく見れば味があるし、リブート版だって出来がいいぞ！
「ゴアラさんなのです～♪」
　怪獣の中の怪獣、大怪獣ゴアラ登場！
　ごあ～～～～～～！！（鳴き声）

「そうよ、ゴアラは敵なんかじゃない。人類の救世主なのよ……！」
　自称霊能力少女が脈絡なくそう告げたのを合図に、いよいよ始まる頂上決戦！
　向き合う二体、ゴアラ対エロラ！
「ゴアラさん、遅刻なのです～」
　ごあ～っ。
「ふふふー、大丈夫なのです～。エロは怒ってないのです～」
　ごあ～？
「エロも楽しみにしてたのです～。さあ、デートの始まりなのです～」
　ごあ～っ♪
　二大怪獣揃い踏み、激突はさぞ激しくなるであろうと思われましたけれど、なんのことはなくてただのデートの待ち合わせだったりしました。
　エロはずしずしと駆け寄り、ゴアラさんのもふもふな腕をもふっと抱き込みます。もちろんちっぽけな人類には怪獣が街を踏み潰し、がっぷり組み合って格闘戦へ移行したようにしか見えません。
　ずしん、ずしん、ずしん。エロとゴアラは仲睦まじく腕組み、やがてざぶんと海中へ姿を消しました。まずはふたりで泳いで遊んでから（だから水着だったのね！）、世界各地のデートスポットを巡るつもりです。近く世界中で、二体の怪獣が再び姿を現すことでしょう。
　そんな怪獣たちのでっかいスケールはもちろん、人類には計り知れないわけでして。
「やっぱりゴアラは、人類の味方だったんだ。寝子島を救ってくれたのよ……！」
　霊能力少女が感嘆にじませつぶやくと、無事だった寝子島住民たちは大喜び。地底人姉妹も涙を流して神に感謝の踊りを奉じ、首相官邸も祝宴の乱痴気騒ぎに包まれたのでした。



　優雅な海中遊泳を楽しむ怪獣二体。
　ごあ～っ。
「そろそろ着くのです～。自由の女神を見て、タイムズスクエアで記念撮影して、エンパイアステートビルに登るのです～」
　ずん。
　ずん。
　ずずん！