猫鳴館へいらっしゃい！｜リアクション

猫鳴館へいらっしゃい！

〇旅立ち

　大学も合格し、卒業式も終わった北里雅樹は、猫鳴館からの引っ越しの日を迎えていた。
　といっても、大した荷物はない。
　今年の春からは京都で大学生活を送るので、すでに京都の方での住む場所は確保している。
　安アパートだが、それでも猫鳴館に比べれば天国に近い。
（何しろ窓から太陽の光が差し込むからな）
　そんなことを思いながら、雅樹は部屋を少しでもきれいにしようと掃除していた。
「立つ鳥跡を濁さずというしな」
　この部屋には1年しか住んでいない。
　木天蓼大学法学部の教授である父親との折り合いが悪く、同居したくなかったため猫鳴館に住む羽目になった雅樹。
　1年、2年と住んでいた部屋は夏暑く、冬寒くて年がら年中暗くて湿気がひどい部屋だった。
（3年になってやっとこの部屋に移れた。相変わらず薄暗いのだけは解消できなかったけれど。少なくともあの部屋よりはマシだった）
　とりあえず部屋の中にあるガラクタの類は片付けた。
「あとは掃き掃除に乾拭きかな」
　掃除を終えた雅樹は部屋の壁などをチェックした。
　小さなひび割れを見つけ、補修材を使って直しておく。
「ここに住む後輩が少しでも住みやすいようにしておかなきゃな」
　ここに次に住むのは誰だろうか、と雅樹は思いを馳せる。

　部屋の掃除が終わった雅樹は、改めて猫啼館を見てまわることにした。
（3年間色々あった。よくこんな環境に3年も耐えられたな）
　大掃除の時、黒猫サンに罰ゲームとしてカンカンヘッドをさせられ奇妙な踊りを踊りだしたり。
　屋根に現れた巨大ナメクジに繋ぎ合わせたブルーシートをかぶせたり。
　寮生以外には理解できないだろう大変な目にたくさんあったが、でもお陰でずぶとさだけはしっかり身についた、と思う。
　
　後輩たちが掃除をしているのを見て、雅樹は声をかけた。
「手伝うよ」
「助かります、先輩！　俺おおざっぱで細かい補修苦手なんで」
　簾は心から感謝を告げた。
　雅樹はそれから、時間いっぱいまで掃除を手伝い、後輩たちに見送られて猫鳴館から旅立った。

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