猫鳴館へいらっしゃい！｜リアクション

猫鳴館へいらっしゃい！

〇まずは準備から

「さぁ、入寮者募集だ！　自治会長として、も当然だけど、単純にいっぱい仲間が増えると嬉しいよな！」
　122代目猫鳴館自治会長である2年生の近石簾は、猫鳴館が大好きだ。
　だから先輩たちが卒業した分、新しい仲間を迎えたくて張り切っていた。
　猫鳴館は公式にはとっくに廃寮になっている。
　学校から予算は出ないからオンボロで、普通の新入生なら入りたいとは思わないだろう。
　だがおおらかで楽観的な簾は心配していなかった。
「まず最低限『人が住める』って思ってもらえなきゃ話になんねーからな。掃除と、壊れかかってる窓や立て付けの悪い扉なんかの修理。あと、すきま風や雨漏りなんかはないように、最終チェックしとこう」
「まう、掃除……頑張る」
　１年生の穂現まうがのんびりと答える。
　のんびり屋で気まぐれ、口数少なく、人見知りな、なんとなく猫っぽいまう。
（猫鳴館の維持の為には住んでくれる子がいる事も大切……）
　出身や家族構成等は謎で、いつの間にか猫鳴館に居ついていたまうも、猫鳴館が大好きなのだ。

　まうは箒や雑巾を用意して、人がいない廊下に行くと、
「まうまう」
　とつぶやいた。
　すると、まうがもう一人現れた。
　ろっこん『まうまう只今増殖中』が発動したのだ。
（これで掃除が捗るよ）
　まうともう一人のまうは、手分けして掃除を進める。

　２年生の神野美野梨も、簾の言葉に頷いた。
（にぎやかすぎるのも困るけど、猫鳴館は好きだし自治会費は多いに越したことはないわね）
　眼鏡にロングヘア、知的な印象通り研究好きな美野梨としては、実験で部屋を汚したりする心配も猫鳴館なら比較的ないのがありがたい。
　元々綺麗とは言えないうえ、しょっちゅうどこかしら壊れて修理しているからだ。
「それじゃ、裏庭の菜園や鶏小屋の手入れもきちんとしておくわ」
　生物部部員である美野梨は、日ごろから鶏や畑の世話もしている。
「そうだな。菜園と鶏舎があるから、生き物好きな奴にはいいと思うんだ。世話してるところとかを写真に撮ってチラシ作って、生物部の見学に来た新入生の目に入るように置かせてもらおう」
「いいわね。部長に相談してみるわ」
　一存では決められないが、すみっこに置かせてもらうなら大丈夫ではないかと思う。　
「SNSにも投稿してみよう。何より俺らが楽しそうに生活してるのがわかる、ってのが宣伝になると思うし！」
「そうね、生き物の写真があると親近感が湧くと思うわ」
　美野梨が鶏に餌をやるところを、簾は携帯のカメラで撮影する。
「よし、これでチラシが作れるぞ」
　撮り終えた簾は、何か思いついたような表情になった。
「そうだ。あと、個人部屋見てもらうのも悪くないと思うんだよ。狭いけど意外となんとかなるっての、見たらわかるんじゃねーかな」
「……それじゃ、私の部屋も見学してもらってもいいわよ。お見せするようなものでもないけど、参考になるなら」
　そう言った美野梨に、簾は笑顔を向ける。
「助かる。俺の部屋もなんとか見られるようにしとく」
　
（最近はほしびとの入居者も多いみたいだから、いっそ星幽塔で勧誘するのもありかも？）
　美野梨の脳裏にふとそんな考えもよぎったが。
（でも万一大勢入りすぎるとごまかすのに大変かしら）
　そう気がついて、それを提案するのはやめておいた。

このページにイラストを設定する