今日も愛すべき『フツウ』の日。｜リアクション

今日も愛すべき『フツウ』の日。

　クッキーを焼き終えると、毒島柘榴と毒島イヴは喜好を自宅まで送り届けた。
　遅くなったためタクシーを使って。
　道中「ママ、クッキー喜ぶかな？」「どうせボクにあーんってしちゃうのかな？」喜好は嬉しそうに話していた。
　帰宅した彼の家には母親はいなかったが、喜好は笑っていた。
「今日もありがとうございました！　おやすみなさい」
「ああ、早く寝るんだぞ」
　それだけ言うと柘榴とイヴはそのままタクシーを使い、自宅に戻る。
「……ねェ、柘榴」
　イヴがおもむろに口を開く。
　柘榴はおおかた喜好の心配だろうと思って次の言葉を待った。
「喜好を見てたらその……」
　言いづらそうにイヴは体をよじった。
　運転手に聞かれたくないのだろうか？
「どうした？」柘榴はイヴに体を寄せる。
　イヴは柘榴の耳元に唇を寄せて、囁いた。
　柘榴は目を見開く。
　イヴが懐から小さな瓶を見せてきたので、柘榴は喉を鳴らした。
「運転手」
「はい」
　運転手の円城徹は二人を見ないようにして返事をした。
「悪いが、行き先変更だ」
　柘榴は運転手に行き先を告げると、イヴだけに聞こえるように言った。
「今夜は寝かせねーぞ？」
　心なしか、柘榴の顔は赤かった。

　西野町圭吾は夕食を終えると、明日の大豆の仕込みに入る。
（今日もいつも通りだったな）
　西野町は穏やかな笑みを浮かべる。
（とても大切な一日だった）
　大豆の仕込みが終わると、すぐに布団に入った。
（明日もこれからも家族と笑い合えるそんな日がずっと続きますように）
　午後九時。豆腐屋の長い一日は終わる。

（遅くなったな……）
　寺の階段を下りて、逆巻天野は帰路についた。
　座禅を組んで、いくらか気持ちが落ち着いた逆巻だったが、それでも表情は晴れない。
　考え込んで歩いていると、『ガサガサ』陰から物音が聞こえてくる。
（どうせ猫だろう）
　そのまま通り過ぎようとすると、熊が飛び出してきた。
「え？」
　急ぎ飛び退いて、逆巻は臨戦態勢に入る。
「……うっす」
「邪衣か」
　熊の正体は、邪衣士だった。
「また迷子か？」
「そんなはずはない」
　いつも通りの会話をして逆巻はため息をついて――気がつく。
（これも僕にとってはフツウ……）
　答えを得たわけではないけど、こんなフツウも悪くはないかな。
　逆巻はフッと笑った。
「なにがおかしいんだ？」
「いや、別に」
「変な奴」
「君に言われたくないね」
　そんな言い合いをしながら、二人は猫鳴館に帰っていった。
　逆巻は笑っていた。

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