男の娘Day★｜リアクション

男の娘Day★

「ついにこの日がやって来ました！　男の娘Ｄａｙ★」
　ピカピカに磨き上げられた床。染み一つ無いテーブルクロス。鼻をくすぐるコーヒーの香り。
　開店前の喫茶店に、常盤四月ことエイプリルの声が響く。

　変装メイド喫茶「bonheur」（ボヌール）
　ここはちょっと変わったルールがあった。
　その一つが店員さんは全員変装をしていて、仮名であるということ。
「うふ、楽しそうですねエイプリルさん」
　柔らかな笑顔で、語りかける……高梨彩葉こと一二三。
　シックなメイド服に身を包み、カップを拭いている。
「あは、それはもちろんだよ～一二三ちゃん！　あたし楽しみで、早くに目が醒めちゃったよ～」
　後ろ手に持ったホウキがぷらぷらと揺れている。
「あっ、私もです。お客様が変装するなんていうイベント、今回が初めてですから……毎日ドキドキしてます」
　しゃがみ込んでドアを拭いていた、十文字若菜こと若も会話に参加する。
　ウイッグにメイド服……例え親しい知人が見ても、誰も彼女とは気がつかないだろう。

　そう、変ったルールのもう一つが……お客さんも変装すること……もっともこれは期間限定ではあったが。

「……あら、こんな時間……そろそろお客様がいらっしゃるわね」
　一二三の声に立ち上がる若だったが……
「あいたぁ！　うう、取っ手、頭ぶつけちゃいました……いたた」
　涙目で頭をさする若。
「大丈夫！？　もぉ若ちゃんおっちょこちょいなんだからぁ」
　心配して駆け寄るも、大したことが無いと知るや、白い歯を見せるエイプリル。
「うぅ……き、昨日スカートの裾を踏んでお客さんごと転んでしまったのは、どこのどなたでしたか。ねえエイプリルさん？」
「あ、あれは、別に……たまたまだもんね～」
　エイプリルがひゅーひゅーと口笛を拭く真似をして誤魔化す。
「もぉ～、ほら、準備準備」
　一二三が口元に手を当ててコロコロと笑った。
「今日のスイーツは……と。旬のフルーツを使ったフルーツタルトね」
　狐色に焼き上げられた生地の上に、イチゴ、マンゴー、キウイフルーツ、ラズベリー、ブルーベリーの６種類のフルーツが乗っている。
　なめらかなカスタードクリームの甘みと、フレッシュフルーツソースの酸味が混じり合い、甘酸っぱい香りを放っている。
（うん、今日のも美味しそうね♪）

「……さて、と……あ、どうやらお客様がいらしたようです。では、コホン……変装メイド喫茶「bonheur」開店です」

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