男の娘Day★｜リアクション

男の娘Day★

「いらっしゃいませ～～ようこそbonheurへ」
　軽やかなドアベルの音がして、扉が開く。
（あら、素敵なお店。店員さんの挨拶も良いし）
　三人のハーモニーに迎えられ、桧垣万里は足を踏み入れた。
　普段、大学に通う傍ら、メイド喫茶『ねこのて』でカリスマメイドとして働く彼女。
　今日は勉強を兼ねて、この店を訪れた。

「今日はイベントをやっておりまして、お客様も変装をして頂くのが、御入店の条件となっております」
　一二三がイベントの説明をする。
「おすすめは男の娘……いわゆる女装なのですが……お客様はいかがされますか？」
「たしかチラシにそう書いてあったわね。男の娘ね……私が女装というのも、ややこしいわね、ふふ」
　万里の言葉に、一二三が小さく会釈をする。
「わかったわ、店員さんおすすめの変装にしましょう」

「これは……どんな衣装かしら？　随分大人っぽい衣装だけれど」
　しばらくして、着替えを終えた万里が、テーブルに着いた。
「はい、高校の女教師、担当教科は英語。赴任して二年目というコンセプトになっています」
　白いブラウスに紺のタイトスカート。裾は膝上数センチ。黒いパンプス。髪はアップにまとめられ、ご丁寧に黒縁伊達眼鏡まで着けている。
「ふふ、言われてみれば、そんな感じね。あら、スカート短くない？　ちょっと恥ずかしいわ」
　万里が裾を少し引っ張る。
「よくお似合いですよ。お客様は雰囲気自体がお上品なものをお持ちですから、バランス的にも丁度良いかと」
「そうかしら、うふふ、お世辞でもうれしいわ。なんだか似合っているような気がしてきた」
　エプロンの前で手を揃えた一二三が微笑んだ。

　ローズヒップティーとマロングラッセを注文し、ホッと息を着く。
　店員の姿を目で追い、店内をさりげなく眺める。
（無駄のない動き……お掃除も行き届いてるし……）
　眼鏡のフチに手を添える。まるで本物の女教師のよう。
（さっきの店員さんの気配りも大したものだわ……これは……私もおちおちしてられないわね）

　持ち前のメイド魂に火が付いた万里であった。

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