深草物語｜リアクション

深草物語

小野総合病院の中庭。
小児科に入院している子供達がしゃぼん玉を拭いて、皆楽しそうにはしゃいでいる。
その中でも、子供と同じ様に大きく口を開けて笑う白衣を着た年老いた女性。

「小野心春さんですか？」
修が彼女に声を掛けると、白衣のポケットに手を入れたまま彼女が振り返った。

「えぇ。そうだけども。あなた達は？」

心春はこの小野総合病院の名誉院長という肩書を持った医者だったのだ。
医師としての勤務はすでに引退して、病院に籍だけ残っている形になってはいるが、紛れもなくこの小野総合病院の関係者である。

「えっと、俺は便利屋をやっていて。
―――依頼人の深草裕次郎さんからの贈り物です」
これを、と言って大翔は時計草の包装紙に包まれている四角い箱を渡した。
その中には裕次郎からの簪が入っている。

心春は、いきなり聞かされた名前に驚いたのか黙ったままだ。

「いきなり困るかもしれないんですけど、あなたに簪を渡したいとの依頼で」
沈黙を破ったのは、大翔だった。

「簪？」
「夏祭りに行く約束をしてたって」
「……」

大翔はふうっと深呼吸し自分を落ち着かせてから、依頼の内容を心春に告げた。

裕次郎がこの病院に入院している事、簪を贈って欲しいと依頼した事、そして心春に会いたいと思っているわけではないことも全て話した。
（裕次郎さんは全部、話して良いって言ってたけど）

心春は、最初は驚いていたが話の終わりには「そうだったのね」とだけ呟いた。

「あの俺からお願いするものおかしいんですけど、裕次郎さんに会ってあげてくれない？」
「私からもお願いします」

大翔と美野梨が心春に頭を下げた。
心春は笑顔を浮かべて「勿論」と軽やかに了承したのだった。

こんこんと病室をノックする音。どうぞ、と裕次郎が声を掛ける。

「裕次郎、あなた本当に変わらないわね」
突然現れた心春と大翔達に裕次郎は驚く様子もなく嬉しそうに挨拶をする。

「心春、久しぶりだね」
「若い子を使ってこんなことするなんて。周りくどいのよ、昔から」
「一体なんの事？」

惚ける裕次郎に、心春が返答しようとしたが、修に止められる。

「裕次郎さん、あなた心春さんがこの病院の関係者だって知ってたんですね？
―――その上で心春さん自身に自分に会いにくるか、来ないかを選ばせた」

心春は修の意見にその通りよ、と頷く。

「そうなの？裕次郎さん？！俺には『別に会いたいわけじゃない』って」
「ごめんね」
裕次郎は肩を竦めて、形だけの謝罪を大翔にする。

「心春なら絶対会いに来てくれるって思ってたよ。どうしても伝えたい事があってね」
死ぬ前に、と裕次郎が続けてその場の空気がぴんと張り詰めた。

「なに？夏祭りをすっぽかした謝罪？
それとも一方的に、私を拒絶した理由？」

「君が好きだったよ、心春」

ゆったりと穏やかな声で裕次郎はまっすぐ心春を見て告げた。
その目には彼女以外、映っていないようだった。

「ころころと笑う君も、私をいつも引っ張って楽しそうな君も」

―――大好きだった

二人の間になにがあったのかは、裕次郎と心春だけの思い出である。
そこに踏み入るようなことは誰にも出来ない。
四人は目配せした後に、静かに扉を閉めて病室を出た。

微かに聞こえてきた心春の涙声は、その場を後にした四人には届かなくなった。

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あとがき

担当マスター：星野千景
ファンレターはマスターページから！

初めまして、星野千景と申します。

この度は、本シナリオ「深草物語」にご参加して頂いてありがとうございます。
ご参加して頂きました方々のアクションが優しく、温かいものでしたのでとても嬉しかったです。

シナリオのテーマが「想いは言葉にしないと伝わらない」でした。
最後に、裕次郎が心春に想いを告げられたので本当に良かったと思います。
私自身も二人を幸せな形で終わらせたいなぁと考えていました。

今回が初めてのシナリオでしたので、すごく緊張していたのですが
とても楽しくリアクション執筆しておりました^^
これも皆様の素敵なアクションのおかげです！

感想等ありましたら、是非お待ちしております！

最後となりますが、シナリオに参加して頂いたユーザー様
運営スタッフ様、本作品をご覧頂いた方に深く感謝致します。

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