深草物語｜リアクション

深草物語

旧市街の商店街の中でも奥まった路地にある喫茶店『積恋』は古くから営業しており
常連も多い店である。だが、初めてきた客にも余所余所しさを感じさせない店であった。

紫は、この喫茶店に初めて訪れたがどこか懐かしさを感じていた。

「こんにちは。ご注文は如何いたしますか？」
「あっ！あの！まだぐるぐるチョコ抹茶っていうソフトクリームってありますか……？」
「え？」
注文を取りにきた中年男性が少々驚いた。

「そのソフトクリームはもう無いんですよ。ごめんね」
だが、すぐに笑みに代わり紫に謝罪する。

「い、いえ！大丈夫です！じゃ珈琲を頂けますか？」
「わかりました。でも、あのソフトクリームのことを知っているなんて驚きました」
「知り合いに聞いたんです。
―――小野心春さんという女性をご存知ないですか？」
写真を見せながら紫は男性に心春の事を聞いてみる。

「あぁ！心春さんね！そうそう！彼女はこのソフトクリームが大好きだったらしいからね」
「知ってるんですか？！」
「うん。小野医院の娘さん。お父さんがお医者様で彼女もそうだ」

紫はさらっと告げられたいくつもの情報に驚きを隠せない。
(心春さん医師になっているのね)

「小野医院はもうやっていないけど。でも心春さんはたまに小野医院の自宅の方にいるよ？」
「そうなんですか？！」
「あぁ。ここからそう遠くないから病院の住所を教えよう」
「ありがとうございます！」

男性はこの店の店主らしい。自分の祖父の代から心春さんは積恋に通っていたという。
飾らない性格の心春さんはいつも同じ年の男性と、この店に訪れて楽しそうにしていた事を子供ながら覚えていると話していた。
（男性って、裕次郎さんのことかな？）

紫は注文した珈琲をキャンセルして積恋から出ると、大翔が店の前まで息を切らしながらやって来た。

「紫先輩！」
大翔に、積恋の店主から聞いた情報を話す。

「その話、美野梨さんと修さんにも知らせよう！」
大翔はすぐに二人に電話を掛けて、四人は旧小野医院で落ち合うことになった。

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