深草物語｜リアクション

深草物語

心春さんの父、小野良貴先生が開業していた小野医院は旧市街から近い所にあった。
病院は大きくはないが小野医院の看板もまだ残っていたが、すでに閉業しているので入り口はひっそりとしていた。

「もうやってないから誰もいないのかな？」
大翔が、怪しまれない程度に病院の方を覗きこむ。

「漬物屋の店主さんは、自宅も兼ねていると言っていたんです」
「やっぱり？積恋の店主さんも、心春さん、たまに帰って来てるって」
美野梨と紫が聞き込みした話を伝える。

「確かに病院の反対側は自宅になっていそうだから、裏手に周ってみないか？」

修が冷静に病院全体を見つめながら提案する。
「そうだね！」

一同は病院ではない裏の方に周ると、そこには小野の表札があり自宅となっていた。

「心春さん、居るかしら？」
「どうでしょうか……」
「医師ってことは忙しいよな？」
「んー！とりあいず呼び鈴押してみよ！」
後先をあまり考えない性格の大翔は、三人の相談を軽くスルーして呼び鈴を押してしまう。

「ちょ、中村君！」
「まだ早いですよ！」
「大翔！待って！」
三人が同じく、大翔を止めたが時すでに遅し。

ピンポーンと軽快な音が鳴った後に、微かに足音が聞こえてがちゃりと玄関が開かれる。

「はーい。どちら様でしょうか？」
前掛けをした女性が手を拭きながら現れた。

「あ、えっと……。小野心春さん……ですか？」
「い、いえ。奥様は生憎、留守にしておりますが……？」

奥様と心春を呼ぶ彼女は小野家の家政婦さんらしい。

大翔の説明だと誤解を招く可能性があるので代わりに修が事情を詳しく話した。
彼女は話を理解した上で「奥様は総合病院の方におられますが」とだけ教えてくれたのだ。

「総合病院？ってことは……」
修が考え込む様な顔をした。

「どうしたの？修さん」
「え、そこって」
「まさか、小野総合病院の事？」

大翔以外の三人は、その『総合病院』がどこを指すのかわかった様子だ。

「ちょ、ちょっと、三人とも急になに？」
「中村君、裕次郎さんが入院している病院は？」

修が大翔にもわかるように質問した。

「え？病院って……。あ！」
「私達が今朝、集合した小野総合病院ね」
「ですね」

紫と美野梨が驚いて口を開けている大翔の代わりに答えた。
一同は、すぐさま裕次郎が入院している小野総合病院に戻る。

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