【生き残れ、バトルロイヤル！（２）】

　一方市街エリアでは、スピカ・フォーツと鷹司 凜太郎が大激闘を繰り広げておりました。
　ベレロフォンの無駄無弓が光の矢を放ちビル壁を貫けば、トライアルαは側面へのクイックブーストできわどく回避。
「……ロックオン……ぶち抜く！」
　反撃の波動砲は高速道路を基部から破壊し、崩落する瓦礫を蹴ってベレロフォンは跳びました。
　夕暮れに染まる街並みは既に半ばほどが崩壊し、バトルの激しさを物語っています。
「甘いぞ、スピカ君！」
　光の矢が雨あられと降り注ぎ、左右へのクイックブーストで激しく機体を振りながらトライアルαがそれをくぐり抜けると、待ち受けていたのはベレロフォンのつがえた矢の先端。
「そこだ……」
「……チャージ完了」
「！」
　ゼロ距離で放たれた波動砲は光条となって天を突き、辛くも射線から逃れたベレロフォンは半馬の後ろ足の片方を吹き飛ばされました。
「隙が無い！　さすがスピカ君だな」　
「絶対……負けない」
　なんてたいそう白熱してはおりますけれど、だからといって喧嘩というわけではありません。
「勝ったら、お願い聞いてもらうし……手加減なし」
「はは、もちろん僕もそのつもりだよ。さて、どんなスピカ君にはお願いを聞いてもらおうかな？」
「むぅ～。負けない……もん」
「はははは」
　むしろこれは、バトルを通じたイチャイチャ！　一撃当てられてはすねるフリをして寄り添い、かわしては相手の鋭い一撃を褒め、特になにもなくてもほっぺたにチュウを……とまあとにかく仲睦まじいのでした。おかげでまわりのギアマスターたちやらギャラリーやらは、うらやましかったりシット光線を放出しまくったりと大変です。
　もちろんふたりはそんな周囲の目線になど気づくことなく、目の前のバトル、隣の恋人に夢中です。
「波動砲、リチャージ完了……エネルギー保持しながら突撃。斬り裂くっ」
　トライアルαはブーストを吹かしつつ、左腕のフォトンクローを展開して接近戦を挑みます。
「させないよ！」
　対するベレロフォンは機動力を活かして体を交わし、距離を離して光の矢をつるべ撃ち。格闘戦に持ち込みたいトライアルαから遠ざかります。
　『恋人になんでもお願いできる権』を賭けた、これは重要な一戦です。負けるわけにはいきません！
　ってこのふたりのことですから、こんな遊びは普段から何度もやっていそうですけれど。
「スピカ君にあんなことをお願いするために、翔けろベレロフォン！！」
「リンタロウに、あれ、お願いしたい……トライアルα、波動砲スタンバイ」
　とはいえバトルの内容だけ見れば、なんだかんだと真剣です。ギアマスター同士実力が拮抗しているふたりのバトルは、なんとも見応えがありました。
　ベレロフォンとトライアルαの見事な攻防は、ふたりのイチャイチャともセットで好評を博したとのことです。



　水上エリアはその８割が文字どおり海水によって構成されています。
　バトルフィールド全体の崩落率は既に４０％を越え、陸続きの火山・市街エリアへ続く道は狭くなり、海側からの脱出を試みる者とその阻止を図る者とのせめぎあいの場となっておりました。
「このままこの道を封鎖していれば、敵の数を減らせるぞ」
　善場 義春のカプギア『ZEN-4C86』はビーチの一角に陣取り、水上からの上陸を果たそうとするカプギアを狙い撃ち。安定性の高い四本脚は砂浜でもがっちりバランスをキープし、両腕に備えた強力な主砲の連射を可能にしています。
　どごん、どかん！　砲弾が炸裂し、うかつなカプギアたちを吹き飛ばしていきます。
「よしよし！　今日はおじさん、撃墜記録更新しちゃうぞ……んん！？」
　水上エリアの水際に寝そべる港へ浮かべられた船たちの上を、ちょーん、ちょーん。とび跳ねる影がありました。
　なんて優雅。なんて華麗！　影はわずかな足場である船を事もなげ、巧みに活用し、水上や水中のカプギアたちを流れるように撃破しています。
「いざ、壇之浦八艘飛！」
　カカン！　と拍子木の音が聞こえてきそうな見栄を切り、颯爽あらわるのはナデシコ。水上エリアはいつの間にやら、猫屋敷 姫の独壇場でありました。
「例え敵が水上でも、一気に距離詰めて～……」
　ひょいひょい軽快に跳ねて飛び、左手の小手に仕込んだ短針銃を連射！
「刺し落とす！」
　無数の待ち針が作る圧倒的な弾幕に、敵カプギアは海水に動きを鈍らせたままなすすべもなく沈んでゆきました。
　姫は、にやり。
「ナデシコの機動力ならばこの程度の軽業、造作もないですよ。これは良い画が撮れたはず、ギャラリーの皆々さまもさぞご満足……」
『水上フィールド、Ｃ－５エリアの崩落開始。該当エリアのカプセルギアは、速やかに退避して……』
「おおっと、のんびりもしていられないのです。水の上は堪能したですし、別のエリアに向かうです」
　狭い足場を逆手にとって得た地の利をあっさりと捨て、ナデシコはぴょいーん、ちょん、ちょん。船から船へと飛び移り、あっという間に陸へ降り立ちます。
　市街への道は混戦状態でしたけれど、ナデシコの身軽さならあっという間に飛び越えることもできました。
「敵を倒しながら行くのです。おっとこんなところにも敵カプギアが」
　左手に仕込んだ短針銃のユミが火を噴き、ちゅどどどどん！
「うわっなに、ぎゃー！」
　行きがけの駄賃とばかりにZEN-4C86を待ち針で撃ち抜いて破壊。ナデシコはぴょーんぴょーん、振り返ることもなく軽やかに去っていきました。