【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――｜リアクション

【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――

　力強い足取りで楡宮遠海は寝子島高校に着いた。誰の声も聞こえて来ない。ひっそりとした正門を抜けて講堂に向かう。
「司会、頑張らないと」
　軽く拳を握って自分なりの気合を入れた。
　南校舎と第一グラウンドの間を通って右手に折れる。
「ウソ、一番乗りじゃない？」
　講堂の扉が開いていた。小走りで中を覗き込む。
　白いテーブルクロスを掛けられた台が舞台と並行して幾つも並ぶ。壁には巨大な四枚の絵が飾られていた。一枚が季節を表し、全部を合わせて四季が完成する。
「誰が、ここまで」
「もしかして係の方ですか」
　黒いエプロンスーツを着た女性が声を掛けてきた。
「実行委員会の一人ですが、あなたは？」
「私は旅鴉家に仕えるギャルソンの一人です。人手が足りない状態になっています。不躾とは思いますが、料理や飲み物の運び入れを手伝っては頂けないでしょうか」
「任せてください。それも実行委員会の仕事の一つですから」
　遠海は余裕の笑みを見せた。案内された厨房で目を丸くする。
　大勢の調理師が犇めく。鍋を振るい、皿の盛り付けに細長いピンセットを使っていた。無駄な動きは一切なく、厨房を音もなく動き回っていた。
　大皿に盛られた一品が次々と完成する。
「お願いします」
「あ、はい」
　手前にあるものに目がいく。様々な色で溢れた一品はとろみのあるソースがふんだんに掛けられていた。両手で持つと少し膝が曲がった。
「お、重い」
　遠海はゆっくりと回って講堂に運ぶ。外は風が吹いていなかった。香りが直接、鼻に届く。
「魚介の香りに、この甘い匂いが合わさって、クッ」
　顔を背けて講堂に入り、近くのテーブルの端に大皿を置いた。
「なんの罰ゲームよ」
　言いながら唾を呑み込んだ。