ダンシング・ソード｜リアクション

ダンシング・ソード

「あの……」
　店内に、申し訳なさそうな、小さい声が響く。
　その場に居た人間の視線を集めたのは、三つ編みを揺らしながら、恐る恐るカウンターに歩み寄る御巫時子だった。
「その……すみません、これ、私も……寿井知さんに……」
　何故か申し訳なさそうに、御巫も鞄からチーズを取り出した。
　荒井の手を借りて、ダンボールから出てきた寿井知が御巫を見て「お久しぶりでス。ありがとうございまス……その節は、お世話になりましタ」と言って深々と頭を下げる。
　それに対して、御巫も礼儀正しく礼をした。

「……おう、そろそろ、いいか」
　再び店内に緊張感を引き戻すような、やや苛立ちを含んでいるようにも聞こえる、低い声。
　見れば、入口の横でスーツの男――神無月文貴が腕を組んで高津戸を半ば睨んでいる。
「あんたァ……前にもチラッと見たことあるか」
「おう、そこの小せぇヤツをとっ捕まえた時にな」
　神無月は鋭い視線を寿井知に向ける。
　寿井知は反射的に小さな身体を、ピシッと音がなりそうな速さで直立させた。
「お前、まだくだらねぇことしてねぇだろうな？」
　真顔で首を縦にコクコクと振る寿井知を見て、神無月が鼻を鳴らす。
　その横で、静かに佇んでいた――こちらもまた、スーツの男――鹿黒暖簾が、神無月に視線を送り、低音で「神無月の旦那」と声を掛ける。更にその横で、スキンヘッドの男、松崎竜平も頬を掻きながら、静かな視線を送っていた。こちらもスーツ姿で、威圧的な空気はないが、どこか一般人とは違う雰囲気を醸し出している。
　咎めるでもなく、窘めるわけでもない――しかし神無月はその一言にチラ、と視線を送り、再び高津戸に向き直った。

「……で、表のアレについてだが」
「おう、まぁ、ニュースにもなってるから知らん奴はいねぇとは思うんだが……アレだ。宙に浮く剣……切り裂き魔ってやつか。アレをちょいと捕まえてやろうって話だな」
「ハッ、軽く言ってくれるじゃねぇか。まぁ、別に構わねぇが……『これ』で、か？」
　神無月が店内に集うメンバーを目を細めて一瞥する。
「何か、問題が？」
　神無月を真正面に捉えながら、椅子に座っていた八神修が口を開く。
　ゴツゴツと靴音を響かせ、神無月は八神の眼前に自らの顔を寄せる。
　拳一つも入りそうにない距離で、互いに瞬きもせずに、視線を絡めた。
　怯む様子も、その他にこれといったリアクションも見せない八神に対して、ゆっくりと神無月は身を離す。
「……まぁ、せいぜい邪魔にならねぇように動けや」
「……お互いに、な」
　八神の言葉を聞いて、神無月が唇の端を歪める。
　それを眺めていた松崎は、八神を見ながら意味深に肩を竦めてみせた。
「で、出発する前に、一つだけ皆に伝えておきたいことがあるんだが」
　神無月との絡みなど意に介せず、といった具合で八神は腕を組み、店内を見回す。周囲の注意を引き、一拍置いてから以前に起こった事件の内容――そして、その顛末を語った。
　その後、寿井知の目撃証言を高津戸が補足する形で説明が続く。

このページにイラストを設定する