【期末テスト】満点？留年？？早春、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】満点？留年？？早春、四日間の死線＜物語編＞

☆テスト終了日の放課後

　暫くぶりに登校した朝鳥さゆるは、ただでさえ好奇に満ちた視線がさらに強く感じられた。
　寝子高の制服が全く似合わない、23、4歳にしか見えない年齢不相応な美貌なので、注目を集めるのは無理もない。
　そこへ加えて腫れ物に触るような感じも。
　もっとも、それらを無視して例によって律義に試験を受け、律義に高得点を出して、律義に受け取ったら、また顔を見せなくなる……それがさゆるという女だった。　

　試験問題を解き終えると、今までのことを思った。
　天涯孤独のさゆるの新年は散々だった。
　年末から、葉利沢倫理子の身体を乗っ取った第二人格、Maliceにステッラ・デッラ・コリーナのスイートルームに閉じ込められ、昼も夜もなく身体を貪られた。
　そんな日々がしばらく続き、逃げ出したら、ナイフを突きつけられ車に連れ込まれて……
　雪上に転がされ放置された後は、少女に銃撃され、気づいたら病院だった。
　１週間も入院し、Maliceは病院まで追いかけてきたが、思いがけずまみ子が毎日見舞いに来てくれた。
　さゆると逆に、ぱっと見は高校生だが、実年齢は四捨五入すると三十になるキャバクラで働く女性だ。
　退院したところで戻るところなどない。
　そんなさゆるの言葉に、しばらくうちにいてもいいとまみ子は言ってくれた。

　チャイムが鳴る。
　答案の回収が終わると、さゆるはさっさと教室を抜け出した。
　だが、またしても行く手に待ち構えているあの女の姿を見つけ、一瞬足を止める。
　Maliceが、相変らず揶揄うような、悪意に満ちた透明な笑みでこちらを見つめているのを、無視して歩きだす。

　気が付けば屋上にいた。
　春めいた日差しの注ぐ、誰もいない屋上。
　Maliceはその後を追ってきた。

　さゆるが退院してしばらくが過ぎていた。
　当然Maliceは、消えたさゆるの行方を捜した。
　星ヶ丘の実家にも、藍人の部屋にすら戻る気配がなかった。
　とはいえ、さゆるの居場所をMaliceはすぐに特定した。
（あの女の家に今はいる）
　姫木じゅん（まみ子）のことは把握済みだった。
（その気になれば、ダークウェブで得た闇の人脈を使って、あの女を潰すことはできる）
　しかしMaliceは、今はそれをするつもりはなかった。
（さゆるから全てを奪い取るには、ある程度まで「あの女」に依存したところで……絶望を与えるには、それからの方がいい）
　そんなことはおくびにも出さず、例によって揶揄うようにさゆるの前に姿を現す。

「さゆる、今回も律義に期末テスト受けたよね」
「……」
「ま……そんなことより、あの女と暮らし始めて何日か過ぎたけど、どんな感じ？」
「別に。どうもしない」
　興味なさそうに答えるさゆる。
　しかしMaliceはそんな答えでは引き下がらない。
「うそ。どうもしないなら一緒に暮らすなんてこともないじゃないの」
　Maliceの声には苛立ちがあった。
「あんたに付き纏われるのが嫌だから、仕方なしにあの人のところに逃げてるだけ」
　気だるげにさゆるは答える。
「まあ、ひどいわ。そんなこと言われると傷つくよ」
　Maliceの顔には笑みが張り付いていた。
「どうだか」
「ま、いいわ。当分あの女にあなたを預けとくから。でも……」
　そう言って、不意にMaliceはさゆるのキスを奪った。