【期末テスト】満点？留年？？早春、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】満点？留年？？早春、四日間の死線＜物語編＞

☆テスト返却　２年２組
　
　２年２組の教室で、恵御納夏朝はどきどきしていた。
（今日は、テスト結果の返却日……皆や僕が、進級できるかどうか告げられる日……！）
　時々、窓の外に視線を向け、校庭に猫さんいないかな、って思いながら、結果を待っていた。
（頑張ったから、全科目９０点以上は取れてる……と思う。目標は全科目９５点以上、だけど……）
　それでも、返ってくるまで結果はわからない。
　久保田美和先生が手に答案を抱え入ってきた。
「はーい、テスト返すね～」
　夏朝はすぐに名前を呼ばれた。
　テストを受け取り、思い切って結果を見た。
（……９０点以上は取れてる。９５は……届かなかったけど）
　ほっとした。
　どの進路にも進めるようにと、頑張った結果がここにある。

（夏夜ちゃんと交換日記でやり取りして進路は決めたんだ）
　夏夜は夏朝の別人格である。
　同時に出てくることはないけれど、文章でやり取りして相談することはできる。
　いずれ二人に分離することを望みつつ、木天蓼大学に入って勉強して、小説等の創作系の進路に進みたいと考えていた。
　夏朝の成績なら木天蓼大学は難関ではないが。
（木天蓼大学なら学力に余裕あるかも……とか思うと危険な気がする！　油断しないよう、高校３年になっても頑張る……！）
　そう決意を新たにする。

　その時、突然叫び声が上がった。
「何だってこんな時に思い出すの！」
　直後にドン！　と机を叩く音がして、何事かとそちらを見た。
　椎井莉鳥だった。
「……だ、大丈夫？　莉鳥ちゃん？」
　美和先生が心配そうに声をかけるが、莉鳥は机に突っ伏して答えなかった。
「具合悪いなら保健室に行ったほうが」
　なおも美和先生は言うが、莉鳥は顔を伏せたまま首を振った。
「そう？　具合悪くなったら我慢しないでね？」
　先生は答案の返却を再開した。
（大丈夫かな……）
　心配になる夏朝だが、できることはなさそうだ。
（僕なら……そっとしておいてほしい気がするし）

　視線を戻し、別なことを考えることにした。
（そういえば、皆の結果はどうだろう？　留年せずに進級できるかな。七夜さんは……大丈夫かな）
　周囲を見ると、友達のあおいが答案を眺めていた。
　夏朝の視線に気づいたのか、あおいのほうから声をかけてきた。
「夏朝ちゃん、どうだった？」
「え？　僕？　僕はね……頑張った結果が出たよ」
　謙遜するのもおかしいかな、と言葉を選びつつ、夏朝は答える。
「よかった。私もまあまあだったよ」
　そう言う表情からして、あおいは心配なさそうだ。
「七夜さんも良かったね」
　そう言いながら夏朝は、もう一人の友人のことを考えた。
（ののこちゃんは、別クラスだから結果わからないけど大丈夫かな……）
　後で確認しに行こう。結果悪かったら一緒に猫さん見に行こうって言おうかな、と励まし方を考えながら。
（あ、でもののこちゃんの留年は回避できててほしい……神様お願い……！　それから、できれば頑張ってる他の人たちもみんな）
　ののこも神さまには違いないのだが、夏朝は天の神に祈った。

　莉鳥は、自分の席でぼんやりした様子で自分の名前が呼ばれるのを待っていた。
　２年前──１年生の時、莉鳥は突然期末テストを放棄した。
　成績は決して悪くはなかったのに、全く衝動的に嫌になってしまった。
　
　同級生だった北里雅樹とは恋愛関係が終わった後、しばらくは腐れ縁の関係が続いていたが。
　次第にその関係にも微妙なズレが生じ……明らかに“終わったはずの感情”が再燃しつつあることに気づかされてしまった。
　それに戸惑ううちに、ここしばらくは傷つけあうような間柄になっていて……

　自分の名前が呼ばれるまでのあいだ、否応なしに今までの二人の気まずい関係を思い出してしまって。
「何だってこんな時に思い出すの！」
　気が付けばそう叫んで机を叩いていた。
　周囲の視線が集まっているのがわかる。
（何だってあいつのこと、こんな時に！）
　自己嫌悪でそのまま突っ伏してしまった莉鳥は、目を閉じて何も考えまいとした。
　思い出さないように必死になっていると、背中をつつかれて我に返った。
「……さん、莉鳥ちゃん」
（……何？）
　美和先生に呼ばれていることにようやく気付いた。
　莉鳥はのろのろと立ち上がり、うつむいたまま答案を受け取って席に戻った。
　点数を見ると、赤点ギリギリの美術と音楽を除けば、テストの成績は悪くはなかった。
（進級決定か）
　他人事のように思った。

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