春は芽吹く／a hazy mirage was end｜リアクション

春は芽吹く／a hazy mirage was end

　目覚めて枕元の時計を持ち上げ、軽く戻そうとして思わず二度見する。
　もうこんな時間！？
　肩からずれたロンＴを、直すもたちまちまたずれた。
　またやってしまった。
　タイムマシンはまだ発明されていないはずだが、やろうと思えばタイムスリップだけなら体験できる。といってもまあ、未来方向に一足飛びに進むだけだけれど。
　つまり、寝過ぎた。
　外はうす暗い。でも明け方じゃない。
　陽が落ちるのが早いせいもあるけれど、ストレートにいえば夕方だからだ。
　朝方までゲームで遊んで、昼夜大逆転とあいなったというわけだ。
　ああ、やってしまった。
　それでもいい気分だった。
　大あくびして白真白はベッドからすべり降りる。最高の快眠にしてメガトン級の爆睡を味わった。マリアナ海溝ほど深く深く眠ったおかげで、夢のひとつも見なかった。もちろん疲労感はかけらもない。
　うさぎのスリッパを素足で履き、ぱたぱたとフローリングの廊下を歩いた。
「紅ちゃん」
　朝だよー、もう夕方だけどー、と自分でもよくわからないことを言いながらドアをノックする。
「明けるよー」
　客室のドアを開けるも紅美の姿はなかった。ベッドはきっちりと直されている。整っているといえば部屋全体がだ。掃除もしていったらしくゴミ箱も空だった。寒々しいくらい人の気配がない。紅美が泊まりこむ前の状態に復したかのようだった。
　……ご飯かな？
　リビングに入って見回すもやはり無人だ。
　出しっぱなしだったゲーム機やコントローラーが収納に収まっている。転げ回ったせいでかしいでいたソファやラグも元の位置に戻っていた。
　昨夜カップ焼きそばを食べ散らかしたテーブルだって、きれいに片付けられ拭かれているではないか。
　そのテーブルの中央にメモが置かれている。
『クラン=Gに行ってる』
　紅美の筆跡でそう書いてあった。あいかわらず、ほれぼれするような達筆だった。一緒に住むようになってわかったが、実は紅美は字がとても上手なのだ。
「ああ、そう」
　黙って出て行かれたのかと思ったくらいだったので、チェアに腰を下ろし真白はふうと息をついた。
　大ごとではなさそうだ。ひとりで出かけてくるっていうのもいい兆候なんだとは思う。
　でもやっぱり心配ではある。
　まだ紅美は不安定な状態だ。幼児がえりしているような傾向があり、ときどき突発的に、夢遊病者のようになることすらある。
　道の真ん中で心ここにあらずの状態になってないか。
　この大雪で転んで埋もれてしまってないか。
　考えれば考えるほど綿埃のように不安がつのっていった。
　うん、私もクランGに行こう。
　大急ぎで真白は洗面台に向かった。まずは特急で身支度と腹ごしらえだ。