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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
春は芽吹く／a hazy mirage was end
やばい。
ヤバい。
ヤバイヤバイヤバイ！
手っ取り早く厚着をしてロングコートも装着、さらにマフラーも首に巻いてまゆらは玄関に向かった。思い立って引き返し、ロシア帽をかぽっと頭にかぶる。先日フリマで五百円で買ったものだ。アクリル製人工毛だがやわらかくてふっかふか、こんなに早く使う日が来るとは思わなかった。
ブーツを履く。あらためてトートバッグの中身をチェックする。
スマホに現金、預金通帳、実印、キャッシュカード、全部ある。これがまゆらの全財産だ。
帰ってきたらアパートが雪の重みでペシャンコになってた、という可能性を否定できない。
……多分、大丈夫よね？
希望的観測を胸に、そそくさと外へ繰り出す。
雪一面の通りはすっかり姿を変えていた。銀世界、歩道も家もゴミバケツまで、うず高く積もった雪の下にある。道路だけは雪が少ないものの、行き交う車両の姿はまばらだ。こんな状況で散歩するタフな市民もないようで、歩行者は人っ子一人見かけない。
あれ？ と、どうして？ を連発する。ネットカフェへ避難するつもりだったまゆらだが、どうしても目指す場所にたどり着けないのだ。
白く冷たい迷宮をさまよい歩く。
途中、足を滑らせたせいだろうか。あまりの寒さに頭が働かなくなっているのだろうか。行けども行けどもゴールは見えず、そればかりか自分のいる地点までわからなくなるという始末だ。スマホのマップを表示させたところで、なんだかつながりが悪くて位置はブレブレ、東京とか北海道のマップが表示されたりもした。
粉雪が目にかかる。睫毛が凍り付きそうなほど冷たい。
シャレでもなんでもなく、とまゆらは思った。
遭難、しそうな気がしてきた……。
気持を紛らわすため何か考えようとしたものの、こういった状況でポジティブな考えが突然湧いて出てきたりはしないものだ。
まゆらは、以前観た映画のことを思い出している。
八甲田山雪中行軍の悲劇、百二十年ほど前にあった史実を描いた作品である。
無謀かつ甘い見通しの計画、精神主義と強行軍がもたらした大量の死……寒い時期に観るのはきつい名作だった。
しかもまゆらが思い出したのはこの映画の、とりわけ悲惨な場面だった。
寒さの余り発狂した青森歩兵第５連隊の兵士が、笑いながら素っ裸になり凍死するシーンだ。
まさかあたしも？
考えるだけで血も凍りそうになる。
あの水着令事件より最悪じゃない！
昨夏、オンボロクーラーが職務放棄したせいでまゆらは、アニメで観たばかりの話と現実をごっちゃにしてしまい水着で外出し街を闊歩したのだった。思い出すだけで顔から火が出そうな狂乱のアクシデントであった。驚いた通行人が撮影した動画は、ひりひりするようなデジタルタトゥーとなり今なお電脳世界をただよっている。
考えれば考えるほど避けられない運命（デスティニー）が迫っているような気がした。
焦る。
このままじゃ裸踊りして死んでダーウィン賞（※）受賞じゃない！
なんでもいい。開いている店に飛び込もう。シェルターにしよう。
そう決めて探すもゴーストタウン化した街に開いている店は少なかった。こういうときの切り札たるべき交番やコンビニも見えない。
けれどもまゆらは間もなく見つけたのである。諦念と死の予感に震える視線の先に。
あった……！ 店！ 開いてる店！
「天はあたしを……見捨てなかった！」
声に出てしまった。粉雪のカーテンのむこう、灯りがついている。ファミレス風の外観だがどうやら違うらしい。
ゲームショップ『クラン=G』。
そんな看板が見えたが考えている時間がもったいない。純粋な凍死だろうが事件起こした末の社会的な死だろうが、迫り来るDEATHからエスケープするには飛び込むほかはないだろう。
自動ドアがひらくとカウンターで頬杖ついていた少女が、びっくりしたように顔を上げた。
「あ……いらっしゃいませ」
声にまじる驚きの色が強い。まさかこんなコンディションのときに来店者があるとは思っていなかったのか、何か考えごとにでもふけっていたのか。
けれども、
「ええと」
立ち尽くすまゆらと視線が交わったとき、店長代理三佐倉 千絵（みさくら・ちえ）はにこっと相好を崩したのだった。
「ゲームやプラモデルをお探しですか？ たくさんありますのでご自由に見て回って下さい」
※ダーウィン賞：あまり、いや、かなり賢くない方法で自滅に近い死に方をした人に贈られるという不名誉な賞。ブラックジョーク的な意味あいが強い。
ヤバい。
ヤバイヤバイヤバイ！
手っ取り早く厚着をしてロングコートも装着、さらにマフラーも首に巻いてまゆらは玄関に向かった。思い立って引き返し、ロシア帽をかぽっと頭にかぶる。先日フリマで五百円で買ったものだ。アクリル製人工毛だがやわらかくてふっかふか、こんなに早く使う日が来るとは思わなかった。
ブーツを履く。あらためてトートバッグの中身をチェックする。
スマホに現金、預金通帳、実印、キャッシュカード、全部ある。これがまゆらの全財産だ。
帰ってきたらアパートが雪の重みでペシャンコになってた、という可能性を否定できない。
……多分、大丈夫よね？
希望的観測を胸に、そそくさと外へ繰り出す。
雪一面の通りはすっかり姿を変えていた。銀世界、歩道も家もゴミバケツまで、うず高く積もった雪の下にある。道路だけは雪が少ないものの、行き交う車両の姿はまばらだ。こんな状況で散歩するタフな市民もないようで、歩行者は人っ子一人見かけない。
あれ？ と、どうして？ を連発する。ネットカフェへ避難するつもりだったまゆらだが、どうしても目指す場所にたどり着けないのだ。
白く冷たい迷宮をさまよい歩く。
途中、足を滑らせたせいだろうか。あまりの寒さに頭が働かなくなっているのだろうか。行けども行けどもゴールは見えず、そればかりか自分のいる地点までわからなくなるという始末だ。スマホのマップを表示させたところで、なんだかつながりが悪くて位置はブレブレ、東京とか北海道のマップが表示されたりもした。
粉雪が目にかかる。睫毛が凍り付きそうなほど冷たい。
シャレでもなんでもなく、とまゆらは思った。
遭難、しそうな気がしてきた……。
気持を紛らわすため何か考えようとしたものの、こういった状況でポジティブな考えが突然湧いて出てきたりはしないものだ。
まゆらは、以前観た映画のことを思い出している。
八甲田山雪中行軍の悲劇、百二十年ほど前にあった史実を描いた作品である。
無謀かつ甘い見通しの計画、精神主義と強行軍がもたらした大量の死……寒い時期に観るのはきつい名作だった。
しかもまゆらが思い出したのはこの映画の、とりわけ悲惨な場面だった。
寒さの余り発狂した青森歩兵第５連隊の兵士が、笑いながら素っ裸になり凍死するシーンだ。
まさかあたしも？
考えるだけで血も凍りそうになる。
あの水着令事件より最悪じゃない！
昨夏、オンボロクーラーが職務放棄したせいでまゆらは、アニメで観たばかりの話と現実をごっちゃにしてしまい水着で外出し街を闊歩したのだった。思い出すだけで顔から火が出そうな狂乱のアクシデントであった。驚いた通行人が撮影した動画は、ひりひりするようなデジタルタトゥーとなり今なお電脳世界をただよっている。
考えれば考えるほど避けられない運命（デスティニー）が迫っているような気がした。
焦る。
このままじゃ裸踊りして死んでダーウィン賞（※）受賞じゃない！
なんでもいい。開いている店に飛び込もう。シェルターにしよう。
そう決めて探すもゴーストタウン化した街に開いている店は少なかった。こういうときの切り札たるべき交番やコンビニも見えない。
けれどもまゆらは間もなく見つけたのである。諦念と死の予感に震える視線の先に。
あった……！ 店！ 開いてる店！
「天はあたしを……見捨てなかった！」
声に出てしまった。粉雪のカーテンのむこう、灯りがついている。ファミレス風の外観だがどうやら違うらしい。
ゲームショップ『クラン=G』。
そんな看板が見えたが考えている時間がもったいない。純粋な凍死だろうが事件起こした末の社会的な死だろうが、迫り来るDEATHからエスケープするには飛び込むほかはないだろう。
自動ドアがひらくとカウンターで頬杖ついていた少女が、びっくりしたように顔を上げた。
「あ……いらっしゃいませ」
声にまじる驚きの色が強い。まさかこんなコンディションのときに来店者があるとは思っていなかったのか、何か考えごとにでもふけっていたのか。
けれども、
「ええと」
立ち尽くすまゆらと視線が交わったとき、店長代理三佐倉 千絵（みさくら・ちえ）はにこっと相好を崩したのだった。
「ゲームやプラモデルをお探しですか？ たくさんありますのでご自由に見て回って下さい」
※ダーウィン賞：あまり、いや、かなり賢くない方法で自滅に近い死に方をした人に贈られるという不名誉な賞。ブラックジョーク的な意味あいが強い。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2020年10月11日
- 参加申し込みの期限
-
- 2020年10月18日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2020年10月18日 11時00分
