あなたのスケジュール、教えてください！　～特別な一日編～｜リアクション

あなたのスケジュール、教えてください！　～特別な一日編～

　目を覚ました落合まゆらは見慣れない天井を見た瞬間、きゅっと体が縮こまるのが分かった。
「ついに来たのね」
　今日は声優の初仕事の日だ。役名はないし、出演料もないガヤだが、新人声優としては大きな一歩である。
「よし」
　まゆらは体を起こして、頷いた。パンだとお腹が空くかもしれないので、しっかりとご飯と味噌汁、焼き魚を食べた。
　身支度をして家を出る。スタジオにの入り口に着いた時である。
「あのぉ」
　声をかけてきたのは同い年くらいの女の子だった。
「もしかして出演者の方ですか？」
「え？　あー、あたしはガヤで」
「！　同じです！　実は入りづらくて」
　中からはガヤガヤと声が聞こえてくる。
「じゃあ、一緒に」
　お互い頷いて、中へ。
「寝子島アニメーション学院の落合です、よろしくお願いします」
　そう声を張ると、一瞬話し声が止み、出演者達がそれぞれ挨拶を返してくれた。
「あ、私も……よろしくお願いします」
　一緒に入った女の子も出身校と名前を言って頭を下げた。
　彼女と同じテーブルに案内される。
「はぁ、凄いですね。ハキハキと。あがっちゃって。私、ダメだなぁ」
「そんなことないよ。あたしも緊張してるし」
　そんなやり取りをしながら待機時間を過ごす。
　台本を開いて、練習したり、目を閉じて、精神統一なんかもしてみる。
　そして、午前中の収録が開始された。
　マイクの前に立つと緊張がピークに達し、上手く言葉が出ない。とは言え、決められたセリフを小声で喋り続ける。
　場面的にずっとガヤが必要だったので、最初から最後までやり続けることが出来た。
　待機場所のテーブルに戻ってくると、あめ玉とお菓子、ペットボトルのお茶が置かれていた。
「あれ？」
　近くを通ったスタッフが声をかけてくる。
「ヒロイン役の声優さんからの差し入れだよ。後でお礼言ってね」
「あ、はい」
　お昼はカフェオレとサンドイッチだったが、疲れと緊張で味がしなかった。
　しかし、午後は慣れてきたせいか、リラックスしてやることが出来たような気がする。
　帰り際、お茶とお菓子を配っていたヒロイン声優へと歩み寄る。
「あの、お疲れ様ですっ」
　振り返った先輩声優は首を傾げてから、
「あ、お疲れ様」
　にっこりと笑った。
「お茶とお菓子、ありがとうございました。ごちそうさまです」
「ほんの気持ちだから気にしないで」
「は、はい」
「そういえば、堂々と声を出しててとても良かったわよ」
「ありがとうございますっ」
　頭を下げると、先輩声優は手を振りながら去って行った。
「はぁ～……」
　その場に座り込んでしまいそうなくらい緊張した。
　早く帰ってシャワーを借りよう。今日はよく眠れそうだ。

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