あなたのスケジュール、教えてください！　～特別な一日編～｜リアクション

あなたのスケジュール、教えてください！　～特別な一日編～

　井野つばめは朝早い。家が民宿であり、両親は外が暗いうちから仕事を始めることもある。
　その日はいつも通りに起きるも寝ぼけ眼で、パジャマで厨房へ入って怒られたりだらだら米を研いでいて怒られたり。その結果、お使いを言い渡された。身だしなみを整えて朝ごはんを食べてから出発する。
　向かうは商店街である。
「ふあ……」
　欠伸をするも、大分目を覚めてきた。外の空気に当たるのが良いのだろう。
「えーと、かつおぶしだっけ？」
　乾物屋で大きめのかつおぶしを購入する。調理場で削ってそれで出汁を取るのだ。お吸い物やすまし汁に最適だ。
「これ、おまけね」
「え？」
　渡されたのはけずりぶしだった。すでに削ってあるもので柔らかい。おかか和えなどに入れる。
「どうも」
　少しだけ得した気分だ。そんなことを考えながら歩いていると後ろに気配が。
「ん？　なんだ？」
　ちょこちょことした足どりでついてきていたのは首輪をした猫だった。立ち止まってみると、じっとつばめの方を見てくる。
「……もしかして迷子？」
　なんとなく飼い主はすぐに見つかる気がした。
「すみませーん」
　近くの精肉店へと近づき、抱き上げた猫を見せる。
「この子ってどこの猫かわかります？」
　白い調理服姿の店主が首を傾げる。
「珍しい猫だな。見慣れない」
　意外な答えだった。商店街のどこかの店で飼われている猫ではないのだろうか　
　しばらく商店街を探して回ったが、収穫はなかった。
　つばめは仕方なく、旧市街を出て見ることにした。
「よーし、じゃあ……うわ」
　籠に乗せて上げようとしたのだが、肩に乗られてしまった。
「いや、ちょっと」
　どうにか下ろそうとするが、
「にゃあ～」
　定位置とばかりに落ち着いてしまった。
「ママ―、猫ちゃんが乗ってるー」
　親子が通り過ぎて行き、
「ま、いっか」
　そう言ってつばめは自転車を漕ぎ始めた。
　昼下がり、つばめはすれ違う人を呼び止めては猫の飼い主について知らないか聞いて回った。
「見かけない猫だねぇ」
　こんなセリフを何度聞いたことか。
　堤防のところで自転車を停め、海を見ていると、ようやく猫が降りてくれた。
「はあ、重かったぁ」
　肩が軽くなった。
「みゃあ～」
　猫が鳴いたのでもう一度海の方へ視線を戻すと、夕日が水平線に沈むところだった。水面がキラキラと輝いていて綺麗だ。
「まだ見つかってないけど、なんか楽しかったな。もう少し頑張るか」
　と、猫がじっとこちらを見ていることに気づいた。何かを訴えるような眼差し。
「……お腹空いた？」
　せっかく色んな店を回ったのに食べ物を何も買っていなかった。
「かつおぶししかないけど」
　と、おまけで柔らかいかつおぶしをもらったことを思い出した。袋を開けて、口元へ持っていくと嬉しそうにぺろぺろと舐める。
「うーん」
　仕方なく、猫を連れて旅館へ帰ることにした。それがよかったのか、猫は旅館のお客さんの飼い猫だったらしい。
「疲れたけど、楽しかった」
　まじまじと寝子島の海と夕日を眺めたのはいつ以来だろうか。
「また、行きたいな」
　なんとなくそんなことを思った。

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