エブリデイ☆パンプキンナイト！｜リアクション

エブリデイ☆パンプキンナイト！

★楽しい奉仕活動＆パトロール！

　時を、少しばかり遡ろう。

　ぴーぴー！　ぴりりりり！
　ぴりりの笛の音が、街の一角にけたたましく響き渡る。

「そこのあなた、ストーップ！　なのです！」
「へ？　あ、お、俺ですか！？」

　呼び止められて、大きな荷物を背負った若い犬の獣人が、途端におろおろとする。
　何せ、ぴりりが自警団の中でも特に規律に厳しいことは、街中のひとが知るところだ。

「そう、あなたです！　あなた……少し、顔色が悪いですね！」
「い、いや俺は、何も、悪いことなんか……！　今だって、真っ当な運びの仕事の最中で……！」
「落ち着いてください。大丈夫ですよ」

　慌てる獣人の男の手を、シスター萌々子は優しく握り、包み込んだ。

「ええと、『のの教』の……」
「はい、シスターの萌々子です。ぴりりさんは、あなたのことを疑っているわけではありませんよ」
「えっ、そ、そうなんですか……？」
「はい。純粋に、あなたの顔色が悪いのを心配して、ぴりりさんは声をかけたんです」

　やましいことがあるから顔色が悪くなったのでは、と言っているわけでは決してない。
　そう丁寧に説明すれば、男はほっと息を吐いた。

「そうだったんですね……」
「まあ確かに、勘違いしてしまう気持ちはよーくわかりますが……」

　声を潜めて、悪戯っぽく囁く萌々子。
　萌々子の瞳にくすぐったがるような笑みの色が映っているのに、男も、釣られたように少し笑った。

「さておき、私の目にも、実際に顔色が悪く見えます。どこか具合が悪かったりはしませんか？」
「その……実は、今朝から頭が痛くて……」
「それはよくありませんね。神は言いました、『たまにはサボっていい』と……」

　あなたには身も心も休む時間が必要ですよ、と神の言葉を真摯に伝える。
　男は感極まったように目を潤ませ――しかしすぐに、しゅんと尻尾を垂らした。

「ありがとうございます。でも、これは急ぎの仕事で……」
「なら、私がその荷物、責任を持って、届けるべきところへ届けましょう」
「で、ですが……」
「安心してください」

　萌々子のかんばせを、自信に溢れた、弾けんばかりの笑みが彩る。

「何故なら、神はこうも言いました、『会う人会う人、みんな友達！』と！」
「み、みんな友達……？」
「はい。友達が困っていたら、手を差し伸べて当然です！」
「街の平和のため、ぴりりも困っているひとは放っておけないのです！　ぴりり達に任せてください！」

　萌々子に続いて、ぴりりも力強く請け負った。
　男の目に、今度こそはっきりと涙が滲む。

「ありがとうございます。俺は信者ではないですが……今度、礼拝堂にお祈りに行ってもいいですか？」
「勿論です。のの神様は、『友達も、友達の友達も、みーんなウェルカム！』と言っています」
「でも、調子が良くなるまでは大人しくしているのですよ！」

　言って、ぴりりはえいやっと先ほどまで男が背負っていた荷物を持ち上げた。

「ぴりりさん、相変わらずの怪力ですね。……でも、流石に重くないですか？」
「大丈夫なのです！　さあ萌々子さん、パトロールを続けましょう！」
「はい。荷物も、きちんと届けましょうね」

　騒ぎが2人の耳に届いたのは、その時だ。

「むむ！　これは、平和が乱れているいやーな予感がするのです！」
「広場の方でしょうか。私も、放ってはおけません」

　神も、『ケンカはダメだよ！　みんな仲良くね！』と言っていますと、萌々子は気合十分、拳を握った。

（それに……ぴりりさんが暴走した時は、私が止めないといけませんしね）