エブリデイ☆パンプキンナイト！｜リアクション

エブリデイ☆パンプキンナイト！

★騒動のあとで

「……まったく、本当にこの街は賑やかだな」

　シスター萌々子の助けもあり、何とか誤解を解くことが叶ったレオンが、不機嫌に言う。
　彼のじとりとした眼差しを気にも留めずに、ぴりりは、

「規律と平和を侵さない範囲なら、賑やかなのはいいことなのです！」

　と、真面目に応じた。
　青筋を立てるレオンを、「まあまあ」と宥める萌々子。

「離せ、シスター。こいつには、もう何回も困らされてるんだぞ！？」
「まあまあまあ。ぴりりさんも、街の平和のために一生懸命頑張ってくれているわけですし……」
「萌々子さんの言う通りです！」
「だーかーらー、それが空回りしてんだよ！　巻き込まれる俺の身にもなれ！」

　レオンと萌々子、そしてぴりりのやりとりを、仲睦まじいな、とあやめは眺める。
　聞けば、レオンは街の住人でこそないが、前々から彼女達との交流があるらしい。
　毎度トラブルに巻き込まれてるだけだ、とレオンは渋い顔をしていたけれど、

（それでも、僕よりずっと、この街に馴染んで見える）

　そんな思いが胸を過れば、一抹の寂しさが心を刺す。
　と、その時。

「おい、あやめ」

　当のレオンが、いつの間にか俯いてしまっていたあやめを呼んだ。

「え……？　は、はい……」
「大丈夫か？　騒がしく……俺はしてねえが、そうなっちまったからな。また具合が悪いんじゃ……」
「へ、平気……です」

　そうか、と頷いて、レオンはあやめの手に、小さなぬいぐるみを握らせる。

「……これは……」
「俺が作ってる魔法の品。試供品ってことで。また感想教えてくれよ」
「……ありがとう、ございます……」

　あやめの胸に染み渡る、『また』という言葉。
　萌々子が、「あっ！」と声を上げた。

「レオンさん、私も仲間に入れてください！」
「はいはい。ほら、とっとけ」
「ふふ、ありがとうございます。レオンさんのぬいぐるみ、街でも人気で中々手に入らないんですよね」

　にこにこと笑っている萌々子に、呆れ顔で、けれど少し照れたように首の後ろを掻くレオン。
　彼らの姿を目に、胸の、じんわりと心地よい温もりを噛み締めながら、あやめは思う。

（今日は……僕の、夢を見ようかな。なんだかいい夢を、見られそうな気がする）

　悪魔の尻尾が、ゆらり、機嫌よく揺れた。

「可愛いぬいぐるみも貰えて、お気に入りの劇の脚本家さんにも出会えて。今日は特別な一日ですね」
「俺は、まだ昼前なのに、特別疲れる一日に確定なんだが……」
「まあまあ、その件はもう手打ちということで」

　レオンの棘のある言葉をさらりと受け流して、萌々子は朗らかに言葉を紡ぐ。

「神はこうも言っています、『毎日が特別で、大切な日！』と！」

　ああでも、今日はその中でも、とりわけ素敵な日だと、萌々子は口元に幸せな弧を描いた。
　今日も萌々子の世界には、のの神様の祝福が、溢れんばかりに降り注いでいる。

「……って、あ！　ぴりりさん、預かり物の荷物！　すっかり忘れていました！」
「あわわ、ぴりりもなのです！　た、確か、ここに来る途中で、どこかに置かせてもらって……」
「東通りの露店で預かってもらったんでしたよね？　急ぎの荷物ですし、早く引き取りに行かないと！」
「あわわわわわ、急ぐのです！　大至急ですー！」

　空を飛ぶのも忘れてすぐに駆け出したぴりりの背中を追いかけながら、萌々子は小さく、くすりとした。

（まだまだ、賑やかな一日が続きそうですね。のの神様に感謝です！）

　きらきらと輝くキャンディーの雨の最初の一粒が、広場に零れて、しゃらりと鳴る。
　パンプキンナイトの一日は、まだ、始まったばかりだ。

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