エブリデイ☆パンプキンナイト！｜リアクション

エブリデイ☆パンプキンナイト！

★パンプキン・モーニング！（１）

　空の色は、今朝も、ほっこりとまろやかな南瓜色。
　ふわふわとまだ眠たげな雲達は、綿菓子みたいなごく淡いピンク。
　今日の天気は晴れ時々キャンディの雨だと、天気魔導士のランタン頭は笑う。
　針と糸を魔法の如くに操っていたレオンの手が、滑らかに止まった。
　裁縫道具を丁寧に仕舞い、一つ、大きく伸びをする。

「ふう……さて、」

　これにて、作業はひと段落。
　机の上の小物達を、レオンは、鞄の中に収めていく。
　まじないの縫い込まれた、小さく愛らしいぬいぐるみ。
　庭に生える魔女の薬草を使ったポプリ。
　魔宝石をあしらったブローチや指輪も、忘れずに、そっと詰め込んで。

　売り物の準備を終えて、時計を見遣る。
　うわ、と、小さな声がレオンの喉から零れた。

「もうこんな時間か。早く行かねえと」

　少しだけ慌てた様子を見せながら、身支度を整え始めるレオン。
　実は今日は、ほんのちょっとだけ、寝坊をしてしまったのだ。

（何か、楽しい夢を見た気がするんだよな）

　内容は残念なことに覚えていないが、起きるのがもったいなくなる程の夢だった。
　優しくもきちんとしたひとに育てられた自分が、何年かぶりにいつもの時間に起き損ねるくらいには。

　急ぎ、雑貨屋へ納品するための品物を再度チェックして、街で買う物のメモも鞄に入れる。
　お気に入りの外套をふわりと羽織れば、蜘蛛の巣柄を刺繍した銀色の糸が、きらりと煌めいた。
　戸締りも抜かりなく確認し、最後に、小さな墓石へと、いつものように、柔らかな声で語りかける。

「それじゃ行ってくるよ、ばあちゃん」

　いってらっしゃい、と、懐かしい声が返ることこそないけれど。
　それでも、今は亡き育ての親の笑顔が見えるような気がして、レオンの胸には光が燈る。

　今日は、週に一度の街へ行く日。
　レオンは普段、『ばあちゃん』が遺してくれた森の中の一軒家で、ひっそりと暮らしている。

　レオンは、死神の父親と人間の母親の間に生まれたハーフの青年だ。
　物心つく前に両親を失ったレオンを育ててくれたのが、両親の知人だった魔女の『ばあちゃん』。
　その『ばあちゃん』も数年前に寿命を迎え、今のレオンは、ほんのりと寂しいひとり暮らしを続けていた。

　……尤も、彼は、「寂しい」だなんて絶対に口には出さないだろうけれど。

　この世界の死神に、物語に謳われるような命を奪う力はない。
　但し、他者の死期をある程度読み取れる眼を、死神達は持っている。
　人間の母を持つレオンにも、父のその力は確かに受け継がれた。

　不幸だったのは、幼少期のレオンには、その力を制御し切れなかったことだ。
　読み取ろうとしなくとも、周りのモンスターや人間達の死期がはっきりと見えてしまう。
　その負担は、小さな身体、幼い心にはあまりにも大きく、レオンは他者を遠ざけるようになった。
　死に纏わる能力を上手く扱えないことで、誰かを傷つけ、皆に嫌われることが恐ろしかったのだ。

　立派に成長した現在でも、レオンは極力、他人との関わりを避けている。
　週に一度街へ出るのは、小物を雑貨屋で売って、暮らしに必要な金銭を得るためだ。
　レオンはそう言うが、本当は――。

　バス停が近づいてきた。
　数時間に一度しか来ないバスの時間には、何とか間に合ったらしかった。

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