エブリデイ☆パンプキンナイト！｜リアクション

エブリデイ☆パンプキンナイト！

★とある賑やかな街の、何でもない日常のお話（３）

　目当ての公演を観終えたあやめは、街の片隅にあるカフェで一息ついていた。
　頭に、痺れるような感動が今もこびり付いている。

（僕のつたない脚本が、ああも生き生きと描いてもらえるなんて）

　悪魔族にはエリートが多く、故に己を『平凡なモブ』だと思っているあやめには、ある種の負い目がある。
　街中では小さく畳んでいる翼さえ人目を引いているような気がして、びくびくしてしまうくらいだ。
　今日だって、当社比意気揚々と屋敷を出たものの、公演の会場に辿り着くまでは、

　――ああ、家で大人しくしていたらよかった……。

　なんて、ずっと誰かに見られているように思えて、後悔を募らせる羽目になった。
　けれど今、あやめの胸には、興奮が座している。

（……やっぱり、演劇って、生きたひとってすごいなぁ）

　そんなふうに公演の情景を反芻しながら、注文した珈琲を飲む。
　道行くモンスター達――それから偶に人間の姿も――が、何とはなしに視界に入った。

（……あ。あのひと……）

　夢にお邪魔したことがあるひとが、時折目に留まる。
　けれど向こうは、あやめの視線に、気付きさえしない。
　何せ、相手はあやめのことを、少しも知りはしないのだ。

　けれど、夢の中の出来事を現実に持ち帰ってこそいないものの、あやめは知っている。
　その誰かさんと『会ったことがある』という断片的な、しかし確かな事実を。

（それから、よろこびを、たのしい感情を少し分けてもらったことも）

　そんな形でしか、ひととの繋がりを持てない自分という生き物のカタチをふと思う。
　己の臆病加減をまざまざと見せつけられた心地がして、また、ぶくぶくと沈み始めるあやめの心。
　湧いて出た暗い感情ごと流し込むように、あやめは、少し温くなった珈琲を喉に流した。