ドラゴン・キャットファイト！｜リアクション

ドラゴン・キャットファイト！

★龍姫ＶＳ女皇（１）

　フェラマが、胸中に憤怒と高揚を同時に抱くその目前。
　宝石竜は、怒りに沸騰する頭で、しかし淀みなく策を練っていた。

（この妾を蟲呼ばわりし、散々馬鹿にしおってからに……無事で済むとは思うなよ？）

　でかさだけが取り柄の駄竜にはしっかりお仕置き……というか厳罰確定だと、龍姫は女皇を睨む。

「何？　凄んで見せるだけじゃ、痛くも痒くもないわよ？　蠅は蠅なりに、必死で歯向かって来なさいな！」

　声を朗々、フェラマは再び爪を振るう。
　辺り一面を彩る黄玉から感じる強大な魔力、相手との圧倒的な機動力の差……それがどうした、だ。

（攻めて、攻めて、攻め崩す！　それ以外に、何があるっていうのよ、ねえ？）

　爪が舞う、風の刃が踊る。

「ほらほら、避けてばかりじゃ大事な領地が荒れ放題よ」

　だけど……ああほら、体勢を立て直そうったって、逃げ場は『そこ』しかないわよね？
　追い詰めたお姫様に向かって、地面を轟と蹴り上げる。
　大波の如くに降り注ぐは、岩礫の散弾だ。
　龍姫の高度が、僅かに下がる。
　そこへすかさず、フェラマは足技の連撃を――、

「ふん！　他人様の領域で斯様な粗相をする駄竜には、やはり少し教育が必要だな！」

　繰り出そうとして、叶わなかった。
　視界が、突如、黄玉の煌めきに塗り潰され、その眩さに眩む。
　そして、次の手を打つ間もなしに、フェラマを爆発が襲った。
　皮膚が、チリチリと焦げる嫌な感覚。

「くっ……！」

　眼が、見えない。
　一時的なものだという確信はあった。
　反撃などものともしないという気概もあった。
　しかし――視力を奪われた今、下手に動いては、決定打を与えられかねない。

（気配を感じ取れない程、鈍ってはいないけれど……）

　過信や油断は、猛者の足をも綺麗に引っ張る難敵だ。
　相手も中々の手練れとなれば、功を焦るのは得策とは思えない。

　攻勢に出られない悔しさと、トリッキーながら思いの外悪くない戦術を前にしての昂ぶり。
　その両方を余すところなくその身に享受しながら、フェラマは守りの構えを取った。
　今のフェラマは、大盾だ。
　己が身を可愛がるためでなく、来たるべきチャンスにすかさず相手を襲うための。

（――直撃か。想定以上の効きだな。一瞬でも注意を引ければ、上々かと思ったが）

　対する龍姫は、己が策の成功への驕りは持たず、静かに状況を俯瞰する。
　こちらの気配が読めないわけではないだろうが、動きを止めてくれるのは都合がいい。

　――『玉石破砕』。

　魔力を存分に保持した魔宝石に更に魔力を込めれば、暴走した魔力は、強い光を伴う爆発を発生させる。
　フェラマを襲ったのは、周囲の黄玉を自由に操る龍姫の力と地の利、その双方を生かした技だ。

　高度を落としたのも、フェラマに隙が生まれるのを狙ってのこと。
　油断をしてくれる相手ではないが、攻撃手段を切り替えようとすれば、ほんの僅か空白も生じよう。
　堅牢の加護・『龍姫剛体』は今も健在。
　岩礫の雨も、龍姫にとっては、痛みこそあれ、それ以上にはなり得なかった。

（この機は逃さんぞ、うち……妾の住処を荒らした侵入者め。――『宝玉軍勢』！）

　すかさず、黄玉を核としたゴーレムを生み出す龍姫。
　ぼこ、ぼこりと、地面から、次々に土と岩の兵隊が起き上がる。
　その身の丈は２ｍ程。
　対するフェラマのそれは、３０ｍ近い。

（このままでは、あの竜に対抗するには足らぬな。ならば――）

　龍姫が念じれば、生み落としたゴーレムは瞬きの間に結合され、どんどんと肥大化していく。
　フェラマと同等のサイズにまで成長したゴーレムに、声には出さず、念で指示を出す龍姫。
　その命令は、ごくシンプルなもの。
　フェラマの捕縛と、彼女に対する攻撃のみだ。

（行け、ゴーレム！）

　途端――辺りに、鈍い、痛みの混じる悲鳴が響いた。

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