ドラゴン・キャットファイト！｜リアクション

ドラゴン・キャットファイト！

★龍姫住まう『玉の鉱道』、火山地帯にありければ、

「あっったま来た！　五月蠅い蠅は、綺麗に叩き落としてあげるわ！」

　――ぶおんっ！
　耳が痛くなるほどの、痛烈な空気を裂く音。
　視界には燃えるような赤が煌めきの尾を引き――宝石竜（ジュエルドラゴン）は、チッと舌を打つ。
　日緋色金の爪の場違いなまでの美しさの、腹立たしいこととと言ったら！

「避けるのだけはお上手ね。まるで無様の見本市だわ」

　苛立ちの滲む声に嘲りをトッピングして、日緋色金の竜――フェラマが鼻で笑う。
　明快な挑発に、宝石竜――またの名を龍姫と言う――は口の中を噛んだ。
　痛みが、自制を脳に呼ぶ。

「……ふざけるなよデカブツ！　妾は、貴様のような愚か者ではないというだけだ！」
「はあっ！？　誰が愚か者よ、誰が！！」
「貴様しかおらぬわ！　己の領域を好き好んで破壊する程、うち……じゃなくて妾は浅慮ではない！」

　貴様のような戦闘狂とは頭の出来から違うのだ！　と龍姫が吠えれば、

「何よ、蠅風情がお高くとまって！　絶対に竜扱いしてやらないわ、虫で十分よ虫で！」

　という具合に、キイイイ！　と叫んで、フェラマは再び、爪を宙に踊らせた。
　爪の数だけ襲い来る日緋色金の剣戟を、龍姫はすんでのところで全て避ける。

　しかし、

「ッ……！」

　遅れて、頬に、腕に、足に、鈍く走る痛み。

　――『龍姫剛体』。

　彼女の身体の堅牢さは、そのサイズの比ではない。
　攻撃も、全て見切った。
　けれども、フェラマの豪胆なる連撃が生んだ風は、刃となって龍姫の身を襲ったのだ。

　どれも、ごく浅い傷だ。だが――、

（クソッ！　うちの……じゃない、妾の身体に傷をつけるとは、何と憎々しい！）

　――ここは、まかいの火山地帯に位置する『玉の鉱道』。
　見渡す限りに広がるは、岩石と、良質の魔力を潤沢に蓄えた黄玉。
　地熱の赤光に照らし出され、インペリアルトパーズが煌々と輝く、龍姫の住処。

　鉱床ではあるが完全に地下に埋没してはおらず、昼夜を問わず、そこには幻想が満ちていた。
　あたたかな陽射しが岩の切れ目から射し込めば、黄玉の輝きは宮殿の舞踏会を思わせる絢爛さ。
　また、月の冴え冴えとした光を黄玉が受けたなら、地下の世界は、大神殿の如き静謐と神聖を燈す。
　その二色の美は、上位の竜種たる宝石竜の一種たる龍姫に、誠に相応しいものだ。

　――だが、しかし。

　姫君の寝床も、盤石ではなかった。
　地下を通る大きな龍脈の恩恵は、其処彼処に光を生む、最高級の魔宝石だけではない。
　鉱床の硬度は、龍脈からの魔力で充分以上に保たれており、その崩落を許しはしない……の、だが。

（腐っても……いや、腐ってなどおらぬが、妾と同じく立派そのものだが、此処も火山地帯の一部……）

　したらば、何が起こるか。

（山の鳴動、或いは地響き……そういう振動は直に来るんだよくっそう！！）

　そう。その強固さは、必ずしも快適までを請け負ってくれはしないのだ。
　火山地帯に位置する以上、その名が示す通りの『火山』の影響は必至。
　それだけでも、尊大の裏に繊細を隠す龍姫にはキッツイものがあるというのに、

「蠅らしいっちゃ蠅らしいけど、流石にちょこまかとうっとおしいわね。逃げてばかりで矮小なこと！」

　虚弱な人間だってもっと勇敢に戦うわよ？　だなんて、侵入者――女皇・フェラマは嘲笑う。
　途端、龍姫の怒りを押し留める堰は決壊し――その瞳の紅玉が、鮮やかに燃え立った。

「他人様の領域を我が物顔で荒らしてからに好き勝手まで言いおって……後悔させてくれるわっ！」

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