ドラゴン・キャットファイト！｜リアクション

ドラゴン・キャットファイト！

★女皇は愉悦に笑みを零す

　その瞳に炎を思わせる赤――奇しくもそれは、女皇が纏うのと同じ色だ――を宿した宝石竜の姿に、

「あら？　蠅でもそうやって奮起することがあるのね。一寸の虫にも五分の魂、って言ったかしら？」

　と、女皇ことフェラマは艶やかに嗤った。
　相手のことを小馬鹿にすることこそ忘れないが、正真正銘、心底からの笑みだ。

　竜族というのは、元より、圧倒的な力を振るう、生まれ持っての強者だ。
　その竜族の中にあっても、『女皇』の名が示す通り、フェラマは特別な竜であった。
　巨大な体躯が内包するは、その威厳に相応しい力、重量。
　そして――『必要となった者に試練を与え育てる』という、使命。
　その身に帯びた重責は、しかし、フェラマに委縮も絶望も与えなかった。

　――ああ、愉しい！

　大抵の場合、使命を果たす折、フェラマはそんなふうに胸を弾ませる。
　例えば、何らかの悪しきモノを倒す『使命』を得た、ある種不運な人間がいるとする。
　すると、彼、若しくは彼女は、命を燃やし尽くさんばかりの懸命さで、必死にフェラマに挑むのだ。

　フェラマは、その使命を全うするために、『竜の試練』という加護を扱える。
　彼女が加護を解除しない限り、此方も彼方も、命を落とすことはない。

　とは言え、加護を扱えるということは、命を守るそのヴェールを剥ぎ取るのもまたフェラマの心のまま。
　己の生死はフェラマの気持ち次第となれば、その戦いは、挑戦者にとっては常に『命懸け』だ。
　故に、戦いの殆どは、女皇の心を湧き立たせるに足る。
　例えそれが、フェラマにとってはひと時の遊戯に対する愉悦に過ぎないとしても。

　そう。奔放で、横暴で、存在自体が天災の如きかの竜は、戦いというものが嫌いではない。
　そんな彼女、同族に対しては更に遠慮がなく。
　気まぐれに戦いを挑まれ、『潰された』者の数は知れなかった。

　なお性質の悪いことに、振り撒かれる、時に理不尽な暴虐は、全て彼女の使命に適ってしまう。
　今回のこれも、欠けるところのない彼女の気まぐれだが、

（まあ、試練だとか天命ってやつだと思って、存分に向かって来てほしいものよね）

　等と、激昂と共に在りながらも僅か冷静を取り戻したフェラマは、唇をぺろりと舐める。