絶対に英語をしゃべってはいけない密室ホテル｜リアクション

絶対に英語をしゃべってはいけない密室ホテル

●最初の犠牲者

「犠牲者が出たか……」
　トワ・E・ライトフェロゥなような者が2人もいなければ、誰かが生存して終わるだろうと考えていた夜海霧楓は、英語を口にするとこうなるのか……と思った。
　最後の1人になった時点で会話が成立しないので、独り言を喋るような人がいなければ、ほぼ生存は確定だ。
　幸い外が吹雪で、トワがいなくなる心配はない。あるとすれば、うっかり英語を口にしてしまうことだけ。
　なるべく自分が喋らないよう注意しつつ、途中退場か、朝が来るまで待つことにした楓だった。

「これ死んだな」
　死んだ従業員を見て諦めモードの水守流は、こうなったら開き直って美人の金髪おねーさんと会話を楽しんでくるとすっかぁと悟りきった。
　良い笑顔で、気を紛らわそうとナンシーに話しかけた。
「ドーモ、ナンシー＝サン、水守流デス。湯上り晩飯みてーっすけど、よかったら皆で一緒に食べませんか？袖すり合うも多生の縁って言いますし」
「それを言うなら『袖振り合うも多生の縁』だよ」
　英二の訂正に「間違えただけだ！」と流は誤魔化す。
「ミ……むぐっ！」
　ナンシーが英語を口にしようとしたので「それは駄目よ」と青山絢が咄嗟に口を塞ぐ。
　他人の言動に目を光らせ、誰かが英語を喋った場合の咄嗟の対応をした絢の【ファインプレー】により、誰かが死ぬことは回避できた。
　これまでに神魂の暴走はたびたびあったが、ほとんどは他愛のないものや、子供のいたずらめいたものばかりだった。
　今回の影響は死人が出るようなものなので、さすがにシャレになっていない。
　誰かがうっかり英語を喋らないよう見張っているので、絢は全然、休む暇がない。
（戦隊シリーズも満足に見る機会もないし……って、私、何を言っているの？）
　それはともかく、絢自身もついうっかり英語を口走ってしまいそうになったが我慢。
（喋らないことは本当にしんどいわ。早く、この神魂現象が終わってほしいわ……）
　そう祈りつつ、絢は【ソファ】に腰かけた。
「ナンシーはニホンゴ慣れていないのデス？　トワもデス！」
　ビシッ！　と決め【ポーズ】をし「仲間デス！」とナンシーの手を取る。
「カワイイお嬢サンとおナカマでウレシイデース」
　危ない仲間だけどな……と心の中で呟く流と楓をよそに、2人は楽しく話し始めた。
「なら、お互いに【Cover】しまショー！」
　助け合いましょう、とトワは言いたかったようだ。
　それを聞いた絢は、急いで阻止しようと動いたが間に合わず。
「え……そんな……？　ど、どうして……」
　突然、胸が苦しくなった。端麗な顔が苦痛に歪み、胸を抑え込んだまま倒れ、そのまま動かなくなった。

※青山絢：心臓麻痺で死亡

「またか……」
　流は倒れた絢を見て蒼褪める。
「残る生存者は5人か。これ以上、増えないでほしいぜ」
　起爆剤となったトワを見て、頼むからこれ以上爆弾発言しないでくれよと楓は聞こえないようにぼやく。
　皆で何か話をして過ごせば、朝まで何とか持ちこたえられそうだと思った英二は、日本語限定しりとりを延々と続けないかと提案した。
「それはいいかもな。英語をうっかり口にするかもしれんが」
　トワとナンシーには敷居が高そうだが、誰かが【フォロー】すればいい。
　やってみようというところで、ナンシーがお腹がすきマシタと言い出した。
　絢の死を目の当たりにしたばかりだが、いつ終わるかわからない長期戦に臨むには腹ごしらえをしなければ体力が持たない。
「腹が減っては戦はできない。何か食おう」
　流の言葉に、皆、賛成したので猫待荘の食堂に行くこととなった。

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