＜愛光島日記＞グッド・モーニング・エブリワン｜リアクション

＜愛光島日記＞グッド・モーニング・エブリワン

●集結

　虚ろな瞳をした白と黒の制服に身を包んだ少年は、モノクローム色のカプセルギアを繰り出す。そのフォルムは背に光輪を背負い複数の手を持つもので、千手観音を彷彿とさせた。
『私を敵と呼ぶか』
「それ以外に何と呼べばよいというのです？　マスターは……『アイオ』は大切なお友達ですわ。この世界を否定してでも私が取り戻さなくては」
『この世界を否定してでも、か。愚かな考えを持つ者は、この島にはいらない。――MO2nG！』
「かかってきなさい！　この璃愛奈様と『アイオ』に勝てるとでも思っているのかしら？」
　璃愛奈が挑発すると同時、MO2nGと呼ばれたモノクロのカプセルギアが、手をしならせ円月輪を撃ってくる。
　『アイオ』は手にしていたモップ型の武器を回転させ、円月輪を打ち落す。
　だがMO2nGの別の手が、別の円月輪を時間差で放っていた。
　二撃目の円月輪が、初撃を打ち落とした『アイオ』に真逆の方向から迫ってゆく。
「アイオ！」
　璃愛奈の悲鳴に、力強い声が応えた。
「任せて。『SHO』、彼女を助けろ！」
　極楽鳥を模した翼持つ銀色のカプギアが疾風の如く滑空してきて、『アイオ』の機体を抱えあげる。
　駆けつけたのは緋鳥ミコトと堀春人。
　さらにもう一体の翼もつカプギアが、『アイオ』を狙っていた円月輪を正確な射撃で打ち落とした。
「さっすがマスター！」
　明るい声で自らのギアを労ったのは龍堂勇（りゅうどうゆう）。ツンツン髪の明朗快活な少年だ。彼のカプギア『アイン・ソフ・オウル』は敏捷と正確性に優れた機体で、翼と跳躍による三次元戦闘と、正確無比な射撃を得意としている。
　続く円月輪は空を切り、高く跳躍して逃れたSHOは抱えていた『アイオ』を璃愛奈の手元に運び届けた。
「あ、ありがとうですわ」
「気にしなくていい」
　ミコトの言葉に春人も頷く。
　勇はワクワクした面持ちで璃愛奈にグッと近寄って来た。
「あんたもこの世界が偽りだって知ってるみたいだからな。この世界を解放したいのは俺も同じさ、加勢するぜ！　……っと！」
　話しているうちに位置を変えていたMO2nGが、さらなる攻撃を繰り出してくる。
　だがそのとき、敵と味方の間に二つの影が立ちはだかった。ひとりは男子の制服の上からだぼだぼの白衣を纏った黒髪の小柄な少女宿名撫子（すくななでしこ）。彼女と背中合わせに立つのは同じく男子制服の天出桃和である。
「――やれやれ。こないだより骨のありそうなのが相手ですわね！　ファッションセンスは相変わらずよろしくないですけど！」
「え、そこですか！？」
　偶然出逢った撫子の突拍子もないセリフに、桃和は気合が削がれてずっこける。
　とはいえ、考えようによってはいい感じにリラックスできたかもしれない。
　そんな桃和の心中など知らず、撫子は白衣を派手にはためかせながら会話を続けている。
「箱から出したばかりのデフォルトのギアはものすごくお色直ししたいですわ！　私服飾だけでなく塗装も得意でしてよ！」
『MO2nGはデフォルトのギアなどではない。色など不要なだけだ』
「なんと勿体ない！　この世界は色で溢れているのに！　ファッションは気分で変えてよいのですよ？」
　撫子のこだわりか、白衣の裏地は友禅のような赤い着物地になっている。
　彼女が動くとひらりふわりとあたりに花が散っていくようだ。
　一同何が起こったかと呆気に取られている。
　しかしこれは彼女の狙い。いわゆる目くらましだ。
　彼女の袖にはステルスと機動力の高さが売りの黒猫型カプギア『ケットシー』が潜んでいる。