＜愛光島日記＞グッド・モーニング・エブリワン｜リアクション

＜愛光島日記＞グッド・モーニング・エブリワン

●仲間

　早朝、帰国子女の愛高２年生緋鳥ミコト（ひとりみこと）は校舎裏を歩いていた。校舎とフェンスに挟まれた道には、朝日の眩しさとは真逆の深い影が落ちている。影の中のミコトの手には極楽鳥を模した銀色のギアがあった。
「SHO……こんな狭い所に閉じ込める羽目になりすまない。今暫く辛抱してくれ」
　ミコトは知っている。ここは偽りの世界。自分はギアで、大事なマスターである鳳城翔はこの銀色のギアとなっている。ギアの羽の先を彩る赤が、翔の前髪の一筋の赤と重なって、ミコトは心の臓を掴まれるような想いがする。
　本来の世界では不仲な親に変わり保護者として翔を支え、気遣ってもいた。
　早く元に戻したい。
　それはミコトの心に湧いてくる強い願いであった。
　射撃部の前を通りかかると、クールな兵士のようなまなざしの堀春人（ほりはると）がライフルのスコープを覗いて朝練をしているのに出くわした。
「精が出ているな」
　ミコトが話しかけると、春人はスコープから目を離して振り返る。
「……誰だ」
「あぁ、私は最近転入した緋鳥だ。宜しく」
　春人は小さく会釈をする。眼光は鋭く、あまり気を許している様子ではないが、不思議な魅力がある。
「ふふ、君は女子からもモテそうだ。堀は何故射撃部へ入部を？」
「何故そんなことを聞く」
「君に興味があるから」
　春人は憮然とした顔つきになった。
「話がそれだけなら練習に戻らせてもらう」
「すまない、そういう意味じゃない。……本題へ入るとしよう」
　ミコトの『本題』という言葉に彼はさらに眼光を鋭くする。
「なんだ」
「……堀はそれでいいのか？」
「どういう意味だ」
「助けたい人がいるんじゃないのか？　このまま此処に居ていいのか」
　ミコトは手の中のギア――SHOを春人に見せる。
　彼はミコトとSHOを交互に見て、合点したというように表情を緩めた。
「知っている、ということか」
「ああ。だが私一人では恐らく太刀打ち出来ない。実はカプセルギアを使った事がないんだ……私は。SHOに何かあったらと思うと怖くてギアバトルをした事がない。だから――共に行かないか、救いに」
　ミコトは春人に手を差し出す。
　彼はしばし黙していたが、ゆっくりと近づいてきてその手に触れた。

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