【節分】鬼は外、福は内、本物の鬼は内に有り｜リアクション

【節分】鬼は外、福は内、本物の鬼は内に有り

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　山羊鬼が切り株周辺に姿を現したのと同じ頃、森の中。
　とある一本の樹の幹から、にゅっと人の手が突き出した。
　ぶるぶると震えるその手は、周囲を探ると土をひとつかみして引っ込んでいく。
　ややあって、もう一度。
　今度は近くに落ちた枝を拾い上げ、しかし引っ込めた拍子に取り落してしまう。
　というより、弾き落とされたような感じだった。
「木の枝はダメか……」
　その手の主――恵御納夏朝は、空っぽになった手のひらを眺めてひとりごちる。
　彼女が居るのは、さっきの樹の中。より正確には、そこから繋がる四次元空間だった。
　運悪く山羊鬼に遭遇し、閉じ込められてしまったのだ。
　一矢報る――否、鬼を殲滅するために、何ができるのかを試そうとしている最中だった。
（こっちから外へ持ち出すのは？）
　撒く用、そして食べる用にと買ってあった豆を、手のひらにおさまる分だけ持って腕を伸ばす。
「うあっ！？」
　弾かれた。
　じんじんと痛む右手を抑え、四次元空間内にばら撒かれた豆を見やる夏朝。
　外の物を持ち込むのもままならないうえ、中の物を外へ出すこともほぼ不可能ときた。
　この場から鬼に仕掛けようにも、これではろくな手は打てないだろう。
　こうなったら、あとはこの中でどれだけ動けるかだ。

　四次元空間にとらわれていたのは、夏朝だけではなかった。
　手を出せるか絶賛試し中の白真白も、そのうちの一人だ。
「あ、出られ……出……」
　重たい水のような抵抗の中をかきわけ、小さな手足だけを樹々からのぞかせる。
　そこから先は、
「出……出られない！」
　なにかにひっかかっているかのように、出られない。
（うーむ、困った。どうしよう）
　他に何もすることはないし、かといって、このまま出られないか試していても不毛だ。
　真っ暗なようでいて、不思議と周囲を見渡せる不思議空間に目を向ける。
　手足を出せたということは、少なくとも中で動くことはできるはず。
　この空間の中を探索できれば、そこから脱出への手がかりが見つかるかもしれない。
　空間へ向かって踏み出した一歩は、ひどく重い。冷たい水に沈められて、その中を歩いているみたいだ。
（水の中みたい。ってことは、泳ぐのと同じ要領でやれば動ける……かな？）
　足元の空間を思いっきり蹴り出しつつ、両手で空間をかきわけるように前へ。
　するとさっきより、ずっとスムーズに進むことが出来た。成功だ。
（さてさて、ここには何かあるのかなぁ）
　不思議な空間を泳ぎながら、真白は周囲に視線を巡らせる。
（私みたいに捕まった人も――あ、居た）
　真白が行き合ったのは、やはり泳ぐように空間内を移動していた夏朝だった。
「君も捕まったの？」
「そうなの！　よかったら協力しようよ」
「うん、もちろん。このままあの鬼の好き勝手になんてさせない……」
　無表情な中に怒りを燃やす夏朝は、合流するまでに掴んだ空間の特徴について真白に伝えた。
　移動した先から、手を出し入れはできないこと。目印の類を空間につけることはできないこと。
　つまり探索しながら、能動的に外へ干渉することはほぼ不可能ということだ。
「それがわかっただけでも十分だよ。あ、そうだ。よかったこれ持ってて」
　そう言って真白が渡したのは、『鋼の如く』で硬化させたリボンだ。
　空間内だって油断禁物、備えがあって困ることはない。
「それじゃいこっか！」