ことのはあそび　～春隣～｜リアクション

ことのはあそび　～春隣～

●スケッチブックと共に

　病気で声を失った小山内海の必須アイテムは、筆談用のスケッチブック。
　筆談用のスケッチブックがないと、友達や先生といった他人と会話することができない。
　声は出ないが、筆談で十分やり取りができるので、それが不便と思ったことはない。
　文章で話をすることもあるが、時折、絵を交えて何かを説明することも。こちらのほうがわかりやすいと褒められたこともある。

　筆談用とは別に、絵を描くスケッチブックもある。
　描き切って一杯になったスケッチブックは全て保存している。
　時折、保存しているスケッチブックに描かれている絵を見て、こんな場所に行った、こんな出来事があったと振り返る。

（あ、これ……）
　スケッチブックを整理していた時、保存していたものに紛れ込んでいた古びた落書き帳を見つけた。
　親が成長記録として保存していたものを譲り受けたものだ。
　これは、初めて絵を描いた時に使っていた思い出深いものだった。

　海は病気で声を失う前から、絵を描くことが大好きな子だった。
　クレヨンが持てるようになってからは、いろんな色を使って紙に自由に、のびのびと絵を描いた。
　大人が見れば殴り書きのようなものだが、海にとっては、無限に広がる想像の世界である。
　丸を上手に描けるようになった頃には、絵のバリエーションが増えた。
　形らしいものがはっきりと描けるようになると、家族や友達の顔、動物を描いたりするように。
　描き続けているうちに、海の画力とモデルはグンと増えてきた。
　海ちゃん、絵が上手だねと褒められた時は、とても嬉しかった。

（私、小さい頃から絵を描くのが好きだったな……）
　嬉しい時も、悲しい時も、病気の手術を受けることに不安を感じた時も、絵を描き続けた。
　手術が成功して病気が良くなったが、声が出なくなったことが悲しくて泣いた日も絵を描いた。
　高校生になった今でも、どんな時も絵を描いている。
（あの時は、すごく緊張したなあ）
　1年生の時に学級委員に選ばれた時に描いた絵は、線が少しブレている。

　壁画通り作りをしたりと、絵に描く出来事が多かった。
　絵を描くことが大好きなので、これからもそういう機会があればいいな、と思う海だった。