ウィンター☆ 部活動のお時間です！～文化部編～｜リアクション

ウィンター☆ 部活動のお時間です！～文化部編～

☆家庭科同好会

　水上桜が家庭科室に着くと、３年生の錦織彩が、２年生の七夜あおいと共に編み物をしていました。
「こんにちは、桜ちゃん」
「桜さん……来て、くださったん……ですね」
　あおいと彩が嬉しそうに桜を迎えました。
　家庭科同好会と水泳部と生徒会会計。一度に３つも掛け持ちしている桜はなかなか同好会の方へ顔を出せなかったのですが、久しぶりに時間を取ることができたのでした。
「年明けでは初めてですね。今年もよろしくお願いします」
　挨拶を済ませると、彩が説明します。
「冬、なので……編み物をして、います……毛糸と、道具はこちらです……」
「はい。それじゃ、何か小物類を作ろうかな」
　桜は毛糸とかぎ針を選び、花モチーフのコースターを作り始めました。
「忙しいのに、よく来てくれましたね……」
　そう言う彩に、桜は聞きます。
「でも、先輩も受験で忙しいでしょう？」
　彩はかぎ針でモチーフを編みながら答えました。
「受験で大変な時期だけれど、やはり息抜きの時間は欲しくて……ここで、皆さんの顔を見られると、緊張がほどけるような気がします」
　彩の言葉にあおいが頷きました。
「編み物は無心になれますよね」　
　一つ編み上げた彩が、次の毛糸玉に手を伸ばしたとき。
　コロコロ……
　毛糸玉が転がって行ってしまいました。
「あら、いけない……」
（でも、触ってないのですが……なんだか毛糸玉が逃げていったみたい？　……まさか、考え過ぎですよね？）
　彩がそんなことを思いながら立ち上がった時。
　３年生の大塚絽紗が、参考書片手に小さく欠伸しながら現れました。
「あら、どなたのですか？」
　転がってきた毛糸玉を見つけ拾おうとしましたが。
「あらー？」
　毛糸玉は絽紗の前で急停止したかと思うと、急に方向を変えて逃げるように転がっていくではありませんか。
「ええっ？　毛糸がいきなり動き始めた！？　って、今度はかぎ針も？」
　桜が驚きの声をあげました。
　かぎ針や編み針、部屋にあったいろんな道具たちが、勝手に動き出しました。
（……まさか……いや、もうこれは「フツウ」な出来事だ……！）
　桜は、去年、まだ彼女が中学３年の時のことを思い出しました。
（高校受験でナーバスになっていたところへ、突然もれいびになって神魂現象が情け容赦なしに起こったものだから、その都度試験勉強どころではない状況に追い込まれて……）
　精神をヤスリがけされるような思いをしたので、それ以来「フツウ」が嫌いになってしまったのです。

　部室にいた皆は顔を見合わせました。
「ど、道具……が、動きました……ね」
　信じられない思いで彩はつぶやき。
「道具が勝手に飛び出すなんて……彩さん、また変な現象が起こっているんですか彩さん～？」
　絽紗が驚きの声を上げました。
「そ、そうみたい、ですね……わ、私たちだけで……なんとか、なる……でしょう……か」
　不安そうに言う彩は、棚の隙間に入ってしまった編み針や毛糸玉をじっと見つめるのでした。