ウィンター☆ 部活動のお時間です！～文化部編～｜リアクション

ウィンター☆ 部活動のお時間です！～文化部編～

☆演劇部：非日常

　恵御納夏朝は一人演劇部の部室にいました。
　今日は集合時間がゆっくりで、他の部員はまだ来ていなかったのです。
　今日は、日頃なかなかできない部室の掃除をしようと思っていました。
「掃除がてら大道具小道具衣装等もお手入れしよう」
　他の人の方が道具の作成もお手入れも上手だけど、使わせてもらっている身としてはちゃんとお手入れしたい……
　そう考えてのことでした。
　しかし。
「……動いたー！？」
　大道具も、小道具も、衣装も……ふわふわ宙に浮き、勝手に動き出しています。
「神魂の影響！？」
　僕だけの時で良かった……とほっとしたものの。
「けど、動いてるものが多すぎ！？」
　とても一人では対応できそうになくて困った夏朝ですが、ふと気づきました。
「なんか……遊んでほしそう？　というか」
　演劇部の夏朝だからこそ思ったことかもしれませんが。
「一緒に演技してほしそう、なのがまだ救いかな」
　部室をぐるりと眺めてみると、なじみのある衣装が。
「ああっ、『オズの魔法使い』の時のライオンさん衣装が震えて隅っこにー！？」
　がくがくぶるぶる。
　震えるライオンの衣装は、夏朝がマタタビック演劇フェスティバルで着たものでした。
（今は、臆病なのかな……）
　別の方に目を転じれば。
「あっちには寝子祭の時のチェシャ猫衣装が他の道具をじゃらしてる……」
　蛍光色のオレンジと白の縞模様な毛並みの猫の衣装は、これまた夏朝が着て演じたものです。

　二着の衣装を見た夏朝に、ひらめくものがありました。
（こ、こうなったら……）
「ライオンさん、チェシャ猫さん……お願い、何とかするの手伝ってー！？」
　衣装たちは、夏朝の声を聞くなり動きを止め、こちらを向いてくれました。
（よかった。僕のことわかってくれた）
　一緒に舞台で懸命に生きた仲間です。わかってくれるだろうという確信めいたものがありました。
「それじゃ、即興演技行くよー」
　夏朝は大道具小道具衣装の皆と即興演技をすることにしました。
（きっと一緒に楽しめば満足してくれるはず。部員や寝子高生等が来る前に解決するんだ……！）
「まぁ、何て美しいところなのかしら……！　でも、ここはどこなのでしょう？」
　夏朝が台詞を言うと、ライオンさんの衣装が立ち上がり、こちらへ向かってきました。
　すると大道具や小道具が、自分の持ち場へと飛んでいきます。
　中央に書き割りに描かれた大木が陣取ると、チェシャ猫の衣装がふわふわ浮かび上がり太い枝の上に乗ります。
「チェシャ猫さんがいる……ならここは不思議の国？」
　首を傾げてみせる夏朝。
　もはや勝手に飛び回る道具はありませんでした。

　しばらく演技をしていると、足音が近づいてきました。
「みんな、今日の練習はおしまいだよ！」
　夏朝が囁くと、衣装や道具たちは元の場所に戻っていきました。

「こんにちは……あら、早いのね？」
　扉が開き、青山絢が顔を出しました。
「こんにちは。……ちょっと掃除をしてたんだ」
　夏朝は何事もなかったように答えます。
　道具たちはもう動くことはありませんでした。

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