廃屋の攻防（またはサバゲー狂騒曲）｜リアクション

廃屋の攻防（またはサバゲー狂騒曲）

●エピローグ？

「え、帰りは各自？」
「うん……ごめん……俺もう無理動けない……」

　そんなの聞いて無いよー、と嘆く白真白に、皆川一和は地面に倒れたまま呻いた。絵に描いたような疲労困憊である。
　確かに思ったより疲れたな、とマリエッタ・ラシュリエはその様子を眺めながら考えた。その分、しっかりストレス発散も出来て、良い気分転換になったけれども。
　そんなマリエッタとは対照的に、響タルトはまだまだ元気一杯だ。もっとも、今日の体験が何か創作の役に立つのでは、とワクワクしている気持の方が強いから、後からどっと疲れが出てくるかもしれない。
　とまれ、全員大きな怪我もなく無事に終わって良かったな、と恵御納夏朝は皆の顔を見回した。そして、何より猫の置物が無事だったのが嬉しい、と満足げに木彫りの猫を見つめてほっこりする。
　充実した、良いゲームだった。街まで1本しかない帰り道を、そんな話をしながら歩いていく4人の女性の姿が、完全に木立の向こうに消えたところで男2人は、揃って大きなため息を吐く。

「先輩……サバゲーってめっちゃ疲れますね……」
「阿呆。お前のはただの体力不足だ」

　まだ起き上がれない一和に淡々とそう返しつつ、遠くを見つめる鷹取康弘である。実は自分もぐったりしてるのは、全力で秘密だ。
　次のゲームまでにもっと訓練しなければ――リベンジを心に誓いつつ、男2人で空を見上げる。そうして互いに無言のまま、今日を振り返ったのだった……

●プロローグ

　さてその日、サバゲー会場たる廃屋の前に集まったのは、6人の男女だった。個人参加の女性が4人、主催でありペア参加の男性が2人。
　対戦は、まずは慣れるために全員で。それから腕慣らしに1対1の総当たり戦、その後に複数対戦が良いんじゃないか、という話にタルトは大きく頷いて、

「よーし、楽しむよ～♪」

　持参したハンドガン、No.12 シグP228をポン、と叩いた。ブラック・リキッド亭の共同経営者たる友人から、銃の撃ち方は習ってきている。
　故に後は実践あるのみ。どこまでやれるか楽しみだ、とワクワクするタルトのポニーテールも楽しく揺れる。
　そんなタルトの言葉に、うん……と頷いた夏朝の眼差しは、けれどもひたむきに置物を見つめていた。置物、すなわち今回のサバゲーの目的となる木彫りの猫だ。
　全長30cmの置物は、夏朝から見ればただの可愛い猫さんに過ぎない。故に、そもそもは『フツウを死守する為にある程度戦えるよう戦い方を身に付けないと』と思って来たのだが、

（猫さん……絶対見つけたい……守りたい……！）

　そんな決意に燃える夏朝の眼差しを受け止める猫像を、真白もしっかりと記憶に刻み込んだ。それからフィールドとなる廃屋を振り返って、ふぇー、と感心したような声を漏らす。

「ぼろい建物。でも思ったより大きいなぁ」

　平屋にしては屋根も高く、重厚な雰囲気の建物だ。その上、長年放置されてきた建物特有の荒んだ雰囲気があって、夜に来たらちょっとしたお化け屋敷になりそう。
　そんな真白の感想に、頷きながらマリエッタも廃屋を見やった。確かに大きいが、大学で建築学を専攻している彼女から見れば、さほど珍しい建築ではない――渡された間取り図も同じだ。
　そんな事を思いながら、「みんなよろしくね」と挨拶した真白に続いて、簡潔に自己紹介と挨拶をする。それを聞いた主催の男性が軽く驚いた顔になるが、よくある事なので受け流した――茶色い髪はともかく、緑の瞳のせいで『外人なのに流暢に日本語を喋る』と驚かれる事が多いのだ。
　故に受け流したマリエッタに、受け流された主催はそれ以上の反応は見せなかった。

「まずは下見をしよう。こっちだ」

　そうして歩き出した男の背を追って、4人も廃屋へと歩き出したのだった。

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