朧冬の蜃気楼／a hazy mirage of winter｜リアクション

朧冬の蜃気楼／a hazy mirage of winter

　ターコイズブルー。
　さゆるが薄目を開けて、最初に目にしたのがその色だ。
　はっとして身を起こす。身を守るべく胸元にシーツを引き上げた。
　追って来たのか、『あの女』が。救急病院にまで……！
「何よ？」
　怒ったように彼女は、自分の腰に手を当てた。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。それとも、私が見舞いに来ちゃいけないってわけ？」
　まみ子だった。小さな花束を手にしている。桃色の薔薇とガーベラ、ターコイズブルーは包み紙の色だ。
「事件の被害者がどうしてあんただとわかったか、って？　あの朝、発砲が起こったとき近くにいたのよ、私も。あんたが救急車に乗せられるところを見た」
　さゆるは周囲を見回して、いつの間にか病室が変わっていることを知った。刑事が訪ねてきたときより、ずっと明るくて陽当たりのいい部屋だ。
「平気、なの？」
「何が？」
　まみ子はベッドサイドに花瓶を見つけ、いささか乱暴に花束をさし入れた。包み紙は丸めて捨てる。
「いえ……撃たれたような……夢を見たから」
「私が？」
　それはあんたでしょ、とまみ子は笑った。あいかわらず高校生くらいの見た目だ。だが実際はさゆるより十ちかく歳上だろう。
「大騒ぎになってるよ。新聞記者みたいなのが外で張ってる。おかげであんたの居場所もすぐわかったけどね。それで高校生のふりして、『クラスメートなんですぅ～』ってやってこの病室に入れてもらった」
　丸イスを引いてまみ子は座った。
「病院って好きじゃないな。煙草も吸えないし」
「まみ子……」
「じゅん」
「え？」
「『じゅん』でいいよ。あんただけは」
「……じゅん、あの子……私を撃った子、どうなったか知ってる？」
「警察に出頭したわ、今朝」
　何秒か黙ったのち、「なんで泣くの？」とまみ子は言った。

　――『朧冬の蜃気楼／a hazy mirage of winter』　了

（世界は枝分かれしない）

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あとがき

担当マスター：桂木京介
ファンレターはマスターページから！

　ここまでお読み下さりありがとうございました！
　素晴らしいアクションの数々にも大感謝です。桂木京介です。

　今回のリアクションはやや複雑な構成を取っています。

　1．都府楼暦様が登場してからの展開（撃たれたまみ子の発見者は暦様）
　→脇坂香澄によって平行世界（以下の2）が生まれる

　2．前作シナリオ『雪に願いを。／This bird has flown』の結末部12ページ目から直接続く展開（まみ子の発見者は三折部朝衣様）
　→脇坂香澄によって平行世界（以下の3）が生まれる

　3．5ページ目以降の展開（発見者どころか撃たれたのが……！）
　
　というのが大まかな流れです。（時間軸も一定ではなく、3のなかでも行ったり来たりします）

　1～3のいずれも平行世界であって軽重があるわけではありません。ですが今後は3に続く物語を展開していく予定です。
　といっても1と2で描いたものがまったくの無意味というわけではなく、今後皆様が登場するお話に、何らかの既視感のようなものを感じることでしょう。
　また、大きな展開は変わってしまいましたが細かいところではつじつま合わせがおこなわれているので、描ききれなかった範囲で1と2の展開が3で発生しているかもしれません。

　いずれにせよ、当初私がなんとなく予想していた展開とはずいぶん変わりました。そもそもあのＮＰＣは死ぬか重傷は避けられないと決めていたので……。ですが現在のほうがずっと優れていると思っています。これも参加者の皆さんのおかげです。
　あらためてもう一度、本当にありがとうございました。

　次回シナリオでもお待ちしております。桂木京介でした！

追伸：過去の拙作『...calling』も同様ですが、世界が分岐するところ等に隠しメッセージを仕込んでいます。探してみて下さい。

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