白いハコニワ～ホワイトアウトな白昼夢～｜リアクション

白いハコニワ～ホワイトアウトな白昼夢～

　白い。

　吹き付ける雪を避けるように入った旅館の玄関から外を眺めた。激しい吹雪で、とてもではないが出ていける雰囲気ではない。自分の格好を見るとごく普段通りの服装で、そもそもどうやってここまで来たのか分からない。

「……」

　ちょっと頭をひねってみるが、思い出せない。ここにいる理由が自分にはないことに気づくまで、数十秒かかる。どうにも頭がはっきりしない。
　だが、不思議と焦りや不安感はない。おだやかな空気の温泉旅館。親切そうな女中に案内され、部屋に通されると、窓の外は相変わらず雪だ。
　直接の害意はないという感覚を受けるが、同時にアタマの片隅で何かが警告を発しているのも気にかかる。

　廊下を見渡すと他にも客はいるようで、普段着でうろつく者、浴衣姿でくつろぐ者、様々だ。
「……」
　みな一様に満足げな表情を浮かべていることから、この旅館のサービスが高い水準にあることを示している。

　だからこそ。

　だからこそ、完全に心を許せない自分がいる。ゆっくりと休める場所だという認識と、こんなところにいる場合ではないという感情のふたつの間で揺れ動く。

　そっと部屋の扉を閉じ、窓の外の景色をもう一度眺めた夜海霧楓は忌々しげに呟いた。

「……気にいらねぇな」

このページにイラストを設定する