氷のホテル☆星ヶ丘クリスタルガーデン｜リアクション

氷のホテル☆星ヶ丘クリスタルガーデン

●ときめきの氷世界

　とある土日。
　羽生碧南は期間限定イベント『星ヶ丘クリスタルガーデン』へ向かっていた。
　普段なら手の届かないようなイベントだが、イベントのPRで配られた無料招待券が彼女の元へ届いた。せっかく招待券を受け取ったので、予定を空けて今日に至る。

「こういう機会でもないとなかなか行けないんだよね」

　そんなことを言っている間にホテルへ到着。
　お待ちしておりました、と丁寧な接客を受けながらアイスルームへ通される。部屋の全面が氷でできており、壁や柱には美しいレリーフが掘られている。

「本当に氷でできてるんだ……ちょっとひんやりするけど、思ったより寒くはない」

　青や白の間接照明も雰囲気に合っていて、特別な印象を受ける。碧南は感心しながらレリーフを眺める。

「このレリーフとかもきれいで、なんだかちょっとしたセレブになった感じよね」

　雰囲気を堪能しつつ、腰をおろす。
　こういう雰囲気のある場所に来ると、途端に脳内で乙女ゲーのスチルやボイスが自動再生される。脳内妄想モードが起動すると、さまざまなシチュエーションや人物が現れて、テンションがあがっていく。暫し、挙動不審になること３０分ばかり。

「……はっ！？」

　脳内妄想が停止したとたん、碧南は赤面した。

「部屋のなかでよかった……」

　少し落ち着きを取り戻してから、ウェアに着替えてアクティビティへ向かう。
　そこにはスキーなどが楽しめるちょっとした斜面や、スケートリンク、スノーモビル用のレーンなどが設置されている。用具のレンタルも充実しているようだ。

「スキーやスノボ、スケートと色々あるけど、何がいいかな……スノートレッキングか。うん、こっちにしよう」

　スノートレッキングは簡単にいえば雪道の山登り。
　それほど急な坂を歩くわけでもないので、自分のペースで景色を満喫できる。

「おや、羽生くんじゃないか」
「た、鷹取先輩！？」

　景色を眺めていたら鷹取洋二先輩に声をかけられた。まさかここで出会うとは思わなかった。片思いの相手が突然現れて、碧南は内心かなり動揺していた。心臓が一拍分飛ばしたように鼓動が速くなる。

「先輩どうしてここに？」
「僕のところに無料招待券が配られてね」
「あ、私もです」
「おお、君もそうだったのか。折角だ。一緒にトレッキングしないか？」

　碧南に誘いを断る理由はない。あたふたしつつも一緒に並んでトレッキングする。
　少し上ったところで小休止を挟む。

「この眺めはなかなか素敵だ。そうは思わないかい？」
「そ、そうですね」

　気持ちは先ほどより落ち着いてきたけれど、まだドキドキしている。そのとき、ふと足を雪にとられてバランスを崩してしまう。

「あっ」

　そのまま倒れるかと思ったそのとき、鷹取先輩がその体を支えてくれた。

「大丈夫かい？」

　鷹取先輩は碧南を気遣うように声をかける。碧南は大丈夫だとアピールするが、どこか上の空だった。

（あ……今先輩に抱かれてる……）

　偶然とはいえ、この事態になって碧南の脳内は嬉しさで溢れてうまく回っていなかった。それからずっとボーッとしっぱなしで、気づけばトレッキングを終えていた。
　ホテルに戻ってから、レストランで先輩と食事したけど全然味がわからない。夢のような心地というのは、こういうのを言うのかもしれない。
　それでも鷹取先輩とここで過ごした時間は素敵な思い出になったと、碧南は強く感じた。

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