氷のホテル☆星ヶ丘クリスタルガーデン｜リアクション

氷のホテル☆星ヶ丘クリスタルガーデン

●頼もしさの形

　檜山立樹と氷華・クルバトフは『星ヶ丘クリスタルガーデン』へやってきた。

「素敵なところだね」
「そうだな」

　立樹の手には無料招待券が握られていた。

（こんな所に泊まるなんてそうそうできないから宿泊券はラッキーだったな。本当なら懐を気にせず旅行とかはさせてあげたいんだけどね）

　少し複雑な心境だったが、なかなか無い機会なので楽しむことにした。２人は宿泊する部屋に荷物を置くと、スケートリンクへ向かった。
　スケートリンクはきちんと整備されているだけでなく、雰囲気に合わせた意匠をこらしている。

「スケートか……実はやったことないんだよね」
「そうなのか」
「ああ。俺は見てるから氷華さんやっておいでよ」

　立樹は穏やかに微笑みながら氷華に伝えた。氷華は少し考えるそぶりを見せる。

（そうか、檜山さんはスケートが初体験なのか）

　氷華はスケートは得意だった。
　幼少のころはロシアに住んでいて、氷の張った池でよく遊んでいたからだ。ならば、と氷華は立樹に話しかける。

「私が教えますから、やってみましょう？」
「あ、いや、教えてくれるってその……ちょっと男としては恥ずかしいというか……」
「大丈夫ですよ。心配いりません」

　色々と言葉のやりとりはあったが、最終的に氷華に教わることに。
　氷華は髪を一つにくくり、スケート靴を装着すると立樹の両手を握って支える。立樹はスケート靴の不安定さに慣れず、いつ転んでもおかしくない。

「かかとを付けて九十度くらい開くと安定しますよ。そこからペンギンのように歩いてみましょう」
「こ、こうかな？」

　氷華の言うように体を動かす立樹。
　ぎこちなさが拭えず、どこか不自然になってしまう。少しふらつく立樹を氷華は内心可愛いと感じていた。しかし立樹のほうは必死である。

(やっぱりこの体勢男女逆な気がするし凄く恥ずかしくなる……！　こんなことならスポーツひと通りやってけばよかっ……！？）　

　思考に引きずられたのか、立樹の重心が崩れ、前のめりに倒れそうになる。　
　それは一瞬の出来事だったが、咄嗟にその体を氷華が抱き留める。

「大丈夫ですか？」
「あ、危なかった……俺は大丈夫だけど……」

　そういいながら立樹は微笑む。氷華は立樹が無事であることに安心する。

「でも、周りの目もあるからちょっと照れちゃうね……」

　はにかむ立樹を見て、氷華は体が密着して顔も近い状態だと気づいて、自分の顔が熱くなるのを感じた。

「練習を再開しましょう」

　なにかを誤魔化すように氷華は姿勢を正すと、立樹の手を引いた。それから練習を重ね、立樹は転ばない程度には成長した。

　夜。
　２人はレストランで食事を済ませると、アイスバーへ向かう。

「私はカクテルにしよう」
「俺もそうしようかな」

　氷で出来た空間で作られるカクテルというのも珍しい。
　バーテンダーが注文したカクテルを仕上げていく。

「今日は本当に楽しかった。ありがとう」
「俺こそ氷華さんと一緒に過ごせて良かったよ。だって一人じゃ持て余してただろうし。それに……」
「それに？」
「今日は添い寝できるしね」

　氷華は不意打ちの発言に驚きを隠せない。

「な、何を言ってるんですか……！」
「なんせ氷のベッドだからね、くっついた方がよく寝れる気がするんだけど……」
「そういうことではなくて……！」

　部屋に戻ったらそれぞれのベッドで寝る予定だったのであたふたしてしまう。
　しかしふと立樹の表情を見るとクスクス笑っている。

「揶揄ったんですね……」
「ごめんごめん、そういう表情がかわいくて」
「……ホテルの人にお願いして、別室にしてもらいますよ」
「いや、それは……うん、本当にごめん。でもせっかくなんだから一緒に寝たいのはワガママかな？」

　氷華はその言葉に恥ずかしいが頷くしかなかった。

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