新雪とともに日が昇る｜リアクション

新雪とともに日が昇る

☆始業式の姉妹

　大学生の仙藤紫は、今日が授業始めの日だった。
（もうすぐ後期試験なのでうかうかしてられないわね）
　妹の中学三年の仙藤蒼も今日が始業式。
（そういえば今年寝子高の入試だから、春には寝子高の制服を着ることになるのね）
　ちなみに紫は蒼が不合格になることはないと思っている。
(普段ゲーム三昧だけど、いざというときの集中力で成績は結構いい方だし）
　紫が地道に長期間努力する秀才なら、蒼は短期決戦型の天才、というところだろうか。
　時計を見ると、午前７時だった。
（そろそろ起こしに行かないと）

（始業式かあ）
　蒼はいつもよりやや早めに起きた。
　寝巻代わりのロングＴシャツワンピを脱いで、下着も取り換えて、寝子中の制服を着る。
　そして冬休みの宿題のプリントなどを確認した。
（とりあえず全部片づいてる。答えがあっているかどうかはともかく）
　そこで階段を昇る足音が聞こえてきた。
　トントン。
「はーい」
　ノックされてドアを開くと、紫が立っていた。
「起きていたの」
　ちょっと驚いた様子だ。
　蒼はもう制服に身を包んでいて、アシンメトリーの髪を櫛で梳いている。
「おはよう、朝ごはんよ」
　そう声をかけると、紫は階段を下りて行った。
　続いて蒼が降りてきて、朝ご飯を食べ始める。
「今日が中学最後の始業式ね」
　紫が話しかけた。
「うん、そう思うとちょっと寂しいかな」
　蒼が答えると、紫がからかった。
「高校に入ったら校長先生のとっても長いお話が待ってるわよ」
「あー……勘弁してよ」
　そんな会話を交わしつつ、朝食を終えて。
　蒼は歯を磨いて顔を洗い、髪も整えたうえで一足先に家を出る。
（制服着ると、やっぱり冬休みが終わったって実感するなあ）
　校門では校長先生がいつものように挨拶……というより、生徒たちをチェックしていた。
「おはようございます。そこ、かかと踏んでるざあますよ！」
（口やかましく注意するのを見ると、久しぶりに学校に来たなあ、って実感するなあ）
　そんなことを思いつつ、
「おはようございます」
　と元気に挨拶をする蒼だった。

　紫のほうは午後から大学の始業式だった。
　階段教室で、教授が来るまで何人かの友人と冬休みの出来事を話したりする。
「私は妹と寝子島神社に初詣に行ってきたわ」
　友人に問われて紫が話すと、
「彼氏とじゃないの？　姉妹で仲がいいのねえ」
　と冷やかされた。
（蒼が高校に行ったら彼氏ができたりするのかしら？）
　ふとそんなことが頭をよぎったが、恋よりゲームのほうが楽しいであろう蒼の現状を見る限り、どうもイメージが浮かばなかった。

　そのころ中学校が終わった蒼は。
（まっすぐ家に帰ろう、という気にはもちろんなれないよね）
　例によってゲーセン「BooM」に制服姿のまま寄り道した。
　先生に見つかったら大目玉だけれど。
（その辺のスリルもまたゲームのうちだよね）
　周囲をよく見て、先生が来たらいつでもゲーム機の陰に隠れられる用意をしている。
（今回もうまいこと見つからずに済んだわ。さて、まずは小手調べに弾幕シューティングから）
　鬼のような弾幕を巧みにかわしつつ、あっという間にハイスコアを更新した。
「ま、こんなものよね」
　普段なら新しい年最初のゲーム始め。
　けれどいよいよ受験が迫っている中、蒼だって何も考えていないわけではない。
（今日でひとまずゲーセン通いは最後。高校入試が終わるまで、お預け）
　そう心の中で誓って、ゲーム納めを楽しんだ。