新雪とともに日が昇る｜リアクション

新雪とともに日が昇る

☆声優の卵の1年の始まり

　落合まゆらが、さいたま市の実家から旧市街のアパートに戻ってきたのは正月３日のこと。
　その後はいつも通りの日課──早朝トレーニングとしてジョギングとストレッチ、ボイストレーニングをした後、40年以上の歴史ある銭湯『杜の湯』で朝風呂を浴びてから、支度をして学校へ行くところを、冬休みなのでそのままバイト先のイタリアンなファミレス『CamicieＸrosse!!（カミチエ・ロセ）』へ向かう日々を過ごしていた。
　CamicieＸrosse!!の制服はネコミミつきのサンバイザーに、真っ赤なジャケットに黄色いリボンタイ。
　丸見えのおへそにショートパンツはセクシーで人気だ。
「Ciao！　カミチエ・ロセにようこそ♪」
　おせちに飽きたのか客入りは上々で、まゆらは連日忙しく立ち働き、結構な収入になった。

　だがバイト三昧の日ももう終わりだ。
　今日から寝子島アニメーション学院の授業が始まる。
　校内選抜で出演が決まった春アニメ『春の音を奏でるのは君』への収録も近づいている。
（正月気分を吹き飛ばさなきゃ）
　まゆらはひときわ気合いを入れてトレーニングに励んだ。
　その後杜の湯に寄って朝風呂を浴びたが。
（ちょっとやりすぎたかな……？）
　疲れて湯船の中でウトウトしてしまったようだ。
　……ハッとして目が覚める。
（ゲッ、二度寝してた！）
　どれくらい寝ていたのだろう？　慌てて風呂から飛び出し時計を見ると。
「ヤバい！」
（すぐにアパートに戻って身支度しないと！）
　速攻で身体を拭いてトレーニングウェアを着ると、アパートへダッシュ！
　服を着替え、大急ぎでシーサイドタウンの学校へ向かった。

「……なんとかギリギリセーフ」
　教室へ駆け込み、息を整えながら席に着く。
「おそようまゆら。いきなり遅刻乙」
　すでに席に着いていた友達に言われてしまった。
「いちおう間に合ったよ！　正月早々の挨拶がそれ？」
「だってほとんど遅刻じゃん」
　色々言い合ってるうちに講師がやってきた。
「皆さん、あけましておめでとうございます。一年の計は元旦にあり、気を引き締めていきましょう」
　今年もハードな授業が始まるのだった。